嘘と恋とシンデレラ
ふたりともに可能性とその気があるのは事実だ。
けれど隼人がわたしを傷つけるときはだいたい嫉妬や独占欲をこじらせたときで、単なる“悪意”とかじゃない。
一方の響也くんも、直接手出ししようとするときはわたしと彼自身のふたりともがその対象で、わたしだけを傷つけることはなかった。
でも今回の突き落とされた一件は、明らかにわたしだけを狙っての行為だ。
(どうして?)
もし隼人なら、やはり復讐が目的だったということ?
もし響也くんなら、隼人と復縁したことを逆恨みして?
「うーん……?」
やっぱり、わたしは何かを見落としているのだと思う。
どの推測も決定的なものがなくて、可能性の域を出ない。
たとえば、あの違和感────。
最初にわたしをバットで殴って突き落としたのが本当に響也くんなのか、という疑惑。
それも未だに曖昧なまま。
(……というか、そもそもふたりの目的って何なんだろう?)
隼人はわたしの元彼だった。
ということは、わたしとよりを戻すことが目的だった?
いや……復讐なのだろうか?
復讐って具体的には何を指しているのだろう。
復縁を果たすこと?
自尊心を傷つけたわたしを殺すこと?
(響也くんの目的は?)
彼はわたしの本物の恋人だったはずだ。
(なのに……。あれ?)
どうして今、こんなふうに、敵みたいになっちゃったんだっけ?
状況的にはもともと、隼人の脅威からわたしを守ってくれていたはずだ。
いつの間にか彼らの立場が逆になってしまっている。
『……ねぇ、本当にこれでいいの?』
響也くんの言葉が胸を突く。
そのたび何度も自問自答を繰り返した。
わたし、これでいいのかな。合っているのかな。
その揺さぶりを振りきって隼人を信じようと決めた矢先、こんなことになった。
打ちつけた全身がずきずきと痛む。
擦りむいた肌がひりひりと焼ける。
一昨日より、昨日より、もっとずっと自信がなくなってしまった。
真相に近づいているという感覚がまるでないのだ。
「!」
そのとき、スマホが震えた。
ロック画面に表示されたのはメッセージアプリの通知。
相手は響也くんだった。
「何で……」
彼のアカウントは間違いなく消したはずなのに。