嘘と恋とシンデレラ

 どくんどくん、と心臓が緊張気味に脈打つのを感じながら画面をタップした。

【ちょっとだけ話せないかな】

 この展開、何だか以前と同じだ。
 何となくデジャヴ的な感覚を覚えつつ思案する。

(会って大丈夫かな)

 はっきり言って彼らのことはもう信用出来ない。

 ふたりきりになるのは怖い。
 事情を話して隼人も呼ぶべきだろうか。

(だめだ、ふたりが同じ空間にいると話が進まない……)

 きっと、また(らち)の明かない口論が始まってしまう。
 そこから得られるものなんて何もない。

 わたしは彼への返信を打った。

【病室では会いたくない】

 間を置かずに返事が来る。

【わかった、じゃあ食堂で待ってる】

 存外(ぞんがい)あっさりと聞き入れてくれた。

 人目のない“ふたりきり”という状況に固執(こしつ)しないということは、少なくとも今はわたしを害する意図はない?

 そんなことを漠然(ばくぜん)と考えながらベッドから下りる。

 何となく周囲を警戒しながら廊下に出て、食堂の方へ向かった。



 それほど混雑していない食堂では、彼の姿をすぐに見つけられた。

 明るく広々とした空間。
 物騒(ぶっそう)なことが起こる気配はない。

 わたしは響也くんのもとへ歩み寄り、その正面に腰を下ろした。

「こころ」

 はっとした彼は目を合わせてから、わたしの様子を窺うように視線を動かす。

「怪我はどう? 大丈夫? 痛くない?」

 目に入る限りの傷を見回し、その具合をかなり案じてくれているようだ。

「記憶、は────」

「……うん、なくしてない」

 なるべく毅然(きぜん)とした態度を崩さないよう心がけた。
 そうでないと、つけ込まれるかもしれない。

 弱いわたしは寄り添ってくれる誰かを求めて、触れた優しさに依存して、そうやって隙を生んでは何度も騙されてきた。

 今回、記憶を失わなかったことばかりは幸いと言える。

「そっか」

 響也くんは硬い表情のまま何度か頷く。
 何か言いたげだけれど、言おうとはしない。

 ここのところ、というか思えば最初から、彼はずっとこんな調子だったかもしれない。

 本当に言いたいことは、甘い微笑の裏に隠して見えないようにしてしまう。

 何も言わずに待ってみようか、なんて考えながら、伏せられた長い睫毛の落とす影を何気なく見つめる。

「……ねぇ」

 と、どこか迷うような口調で呼びかけられた。

「記憶、取り戻したいの?」
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