嘘と恋とシンデレラ

 今さら何を言い出すのだろう。
 そんなの決まっている。

「うん、もちろん……思い出したいよ。何があったのか知りたい」

 揺れる双眸(そうぼう)を見返すと、彼はふらりと目を逸らした。
 困ったような笑みを浮かべている。

「別に……そんなに焦る必要ないんじゃないかな」

「え?」

「取り戻せなくたって、過去は過去、って切り捨てればいい」

 思いのほか否定的な反応をされ、呆気(あっけ)にとられてしまう。

 何ごとにも理解を示してくれて、わたしを優先してくれる彼だけれど、この点だけは譲る気はなさそうだ。

 そういえば最初の頃も同じようなことを言っていた。

『焦ったり、自分を責めたりする必要なんてない』

『僕も過去の話はしないよ。きみを追い詰めたくないから』

 あれはわたしを気遣っての発言だと思っていた。
 だけど、本当は違ったのかもしれない。

 それは公園で話をしたときにも思いついた可能性だった。
 今、ほとんど確信に変わる。

(思い出して欲しくないみたい)

 間違いなく、失った空白部分に不都合な何かが隠れているのだ。

 わたしたちの過去のことを話したがらないのもそのせいだろう。

(でも、どうして?)

 隼人がああして認めた以上、響也くんは本物の恋人という立場。
 だったら、早く思い出して欲しいはずじゃないの?

「…………」

 重たげな鼓動が加速していく。
 立ち込めた(きり)で前が見えない。

 わたしは一度俯き、ゆっくりと顔を上げた。

「……ぜんぶ、響也くんの仕業なんじゃないの?」

 思わず眉根に力が込もる。
 疑心を隠せなくなり、とうとうぶつけてしまった。

「え……?」

「わたし、見た。響也くんの家にバットが置いてあったの。あれで殴ったんでしょ」

「ちょっと、待って」

「最初に階段から突き落としたのも響也くんなんだよね?」

 言っているうちに熱が入り、恐れる気持ちなんてなくなっていた。
 非難(ひなん)するような声色になる。

 彼は戸惑った表情のままだ。

 (なだ)めるように笑みをたたえたくても、口の端が引きつってうまく出来ないみたい。

 その戸惑いはどっち(、、、)なんだろう。

「昨日のことだってそう……。わたし、突き落とされたなんて一言も言ってないのに」

 真っ先にそう言い出したのは彼だった。
 ぎゅ、と膝の上で両手を握り締める。

「響也くんが隼人になすりつけるためにやったんじゃないの?」
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