嘘と恋とシンデレラ
第18話
チャイムが鳴るぎりぎり直前にそれぞれ教室へ戻った。
つつがなく授業を終えた次の休み時間、今度は隼人がわたしのもとへ来る。
その姿を目にしただけで、心臓を鷲掴みにされたような気分になった。
全身に緊張が走り、どうしても身構えてしまう。
「来てたんだな」
わたしの落ち着かない心情など知るよしもない彼は、例によって小鳥ちゃんの席を借りて座った。
「あ、うん。えっと……」
恐怖心を押し込め、困惑するふりをして見返す。
響也くんと話し合った通り、再び記憶を失ったと思わせなければ。
眉を下げて窺うように見やれば、それだけで察するものがあったようだ。
はっと目が見張られる。
「まさかお前、また記憶が……?」
想定外だと言わんばかりに、控えめに尋ねられる。
わたしが否定するのを待っているような眼差しだ。
だけど、そうはしないで頷いた。
「……うん。でも、ぜんぶじゃない」
「どこからどこまで?」
「隼人のことは何となく」
「何となく……」
縋るようにこちら見つめていた彼は、わたしの言葉を小さく繰り返す。
ショックを隠しきれていないのが見て取れた。
「……で、怪我は? 身体は何ともねぇの?」
「それは……。うん、何とか」
曖昧な笑みを浮かべて明言を避ける。
彼の前では何ごとも曖昧にしておけばいい。
その方がぼろを出すリスクを低められる。
「そっか。……よかった」
隼人は安堵したように息をつき、しみじみと呟いた。
その反応が意外で素直に驚いてしまう。
自分でやっておいて、なんて演技がうまいのだろう。
本気で心配しているみたいな顔をして。
(本当は殺し損ねて残念がってるくせに……)
そういう本心をとことん器用に隠している。
「なあ」
怪訝な目で見つめてしまうと、不意に呼びかけられた。
ぎくりとしたけれど、彼が何かに気付いた様子はない。
「どこまで覚えてんのかよく分かんないから、改めて言っとくけど……俺はお前と付き合ってる」
やはりと言うべきか、隼人はそう主張した。
だけど、嘘をついているわけじゃない。
今回に関しては、それは紛れもない事実だ。
ここから矛盾や綻びを引き出せれば、本当は記憶があることを明かして問い詰められる。
彼と決別する機会を作れる。