嘘と恋とシンデレラ

 警告というよりは牽制(けんせい)でもするかのような隼人の鋭い眼差しを受け、思わず怯みつつも頷いた。

 彼が教室を出ていったのを確認してからスマホを取り出す。
 響也くんとのトーク画面を開いた。

【とりあえずはやり過ごせた。昼休みに学食で話すことになったよ】

 彼からの返信を待たずして、そのアカウントを削除しておく。

 隼人は不定期でわたしのスマホをチェックしてくるけれど、昼休みはほぼ確実と言えた。
 そのために備えておかないと。



     ◇



 すぐに昼休みを迎え、わたしたちは学食へ向かった。

 少し離れた位置に響也くんの姿があるのを確かめてから、隼人と向かい合う形で座る。
 昼食もそこそこに彼は口を開いた。

「俺たちさ、1回別れてんだよね」

「え」

 意外な語り出しに思わず驚きの声がこぼれる。

「完全に俺が悪い。俺のせいで、なんだけど」

 苦い表情で言う。
 自分が悪いと思っていたなんて、それもまた意外だった。

「そのあとにお前は星野と付き合ったけど、あいつ実はやばい奴でさ。ヤンデレっていうか、何か度を越した感じ」

「…………」

「お前も殺されそうになって、ぎりぎりで俺が助けた。それで結局あいつと別れて、俺ともっかい付き合い始めたわけ」

 隼人は真剣そのもの。
 (よど)みない口調で淡々と事実を説明した。

 もっとオーバーに驚いたりするべきなのだろうけれど、彼が素直に打ち明けたことが思いがけず、気が抜けてしまった。

 衝撃を受けたまま硬い表情で見返していると、隼人はさらに(げん)(つむ)ぐ。

「……お前が星野と付き合ってるとき、俺はお前につきまとってた。まあ、それはあいつから守るためだったんだけど」

 そのことまで正直に話してくれるなんて、とますます驚いてしまう。
 印象操作のためには“元彼”で“ストーカー”であることは言う必要もないのに。

 言葉を失っているわたしを、彼はじっと見つめてきた。

「なあ、何か思い出さない?」

 そんなところまで響也くんとは正反対だ。
 隼人はわたしに早く思い出して欲しいみたい。

(でも今回に関しては……そりゃそっか)
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