嘘と恋とシンデレラ
本来は、というかもともとは元彼という立場ではあるけれど、既に一度わたしに事実を話して許され復縁を果たした。
だから、それについて隠し通すことに意味がないと思っているのだろう。
明かしても問題ない、って。
むしろ早く思い出させて、自分を好いてくれている状況を取り戻したいのだ。
隼人の計画では、それは“前提”の段階だから。
「……ごめん」
苦笑して肩をすくめる。
「一気に色々聞いてびっくりしちゃった。何か、自分のことじゃないみたい」
「……まあ、そうだよな」
隼人は眉を寄せ、悔しげに唇を噛んだ。
前のめりになっていた体勢を戻し、しばらく口を噤む。
その反応に偽りはないのだろう。
(それにしても)
ほとんどすべてを正直に打ち明けてくれるとは思わなかった。
けれど、それを踏まえてもわたしとの関係をやり直すことが出来た。
ということが保証となっていたのなら、不都合な過去ではない、と判断したのだと思う。
むしろ隠さないでおけば、誠実な印象を与えられる。
そういう打算のもとでとった行動なのかもしれない。
なんて考えていると、す、と目の前に掌を差し出してきた。
「あ……」
わたしはほとんど反射的にスマホを取り出して渡す。
(大丈夫、見られて困ることはない)
響也くんのアカウントも、彼とのやり取りも消してある。
ほかはそもそも相変わらず空っぽだ。
いつも通り無言でスマホを確かめる彼を何となく眺めていると、不意にあることに思い至った。
(そういえば……)
ふたりとも、わたしのスマホを無断で操作したことがあった。
アカウントが消えていたり戻っていたり……それは間違いなく彼らの仕業。
わたしのスマホに触れること自体は、ふたりともに可能だったのだ。
「あのさ」
ごと、とテーブルにスマホを置いて返しつつ、隼人が切り出す。
「前にこころ、あいつに頭殴られて歩道橋の階段から突き落とされたことあるんだよ」
どきりと心臓が跳ねた。
それについてはあくまで響也くんのせいにして、白を切り通すつもりみたい。
「どういうこと?」
わたしは食い下がった。
以前話してくれたのと同じ内容だろうか。
違っていたら、隼人の“黒”を確定して問い詰められる。
そのときのことは結局、今でも曖昧なままだった。
隼人がわたしを殺そうとして失敗した────バットで殴りかかったものの、殺しきれずに階段から突き落とした────のだと思うけれど、なんて言うつもりだろう?
矛盾を引き出したいが、下手に鎌をかけても無意味だ。
バットで殴られたことなどの情報は、既に共有してしまっているから。
強く速く打つ鼓動を自覚しながら、彼の次の言葉を待つ。
「いや、俺……ちょっと嘘ついてた。もう覚えてないだろうけど」