嘘と恋とシンデレラ

「嘘……?」

 思わぬ流れだった。
 彼の言葉を不安()に繰り返すと、苦しげな表情が返ってくる。

「嘘っていうか、言ってなかったことがある」

 何なのだろう。
 ただならぬ雰囲気に、沈み込むような心音が響く。

 隼人は落としていた視線を上げた。

「実はあのとき、俺もその場にいた」

 あまりに驚いて声が出なかった。
 瞬きも呼吸も忘れる。

「歩道橋の上……こころがひとりだったからちょうどいいと思って。星野のこと警告しようとしたんだ」

 確かにつきまとっていたのなら、そう都合のいいタイミングが訪れるのにも頷ける。

「そのとき、あいつがバット片手に現れたんだよ。あいつはいきなり俺に殴りかかってきて……気付いたお前が咄嗟に庇ってくれた」

「え……っ」

「だけど当たりどころが悪くて、お前は意識を失った。それで、そのまま階段から────」

 隼人は先ほど以上に苦しげに顔を歪めた。
 (しぼ)り出すような声が途切れる。

 中途半端に開きかけた口から息がこぼれた。
 わたしはそうやって衝撃を処理するので精一杯だった。

「そんな……」

「俺、支えようとしたけど間に合わなくて」

 彼の声がわずかに震える。

 落ち着かない拍動(はくどう)と呼吸を繰り返しながら、わたしは数度小さく頷いた。

(そっか)

 その瞬間のことが、以前に少しだけフラッシュバックして蘇ってきたことがあった。

 わたしは背中を押されたのだと思っていた。
 確かにそんな感触があったから。

 でも、そうじゃなかったのかもしれない。
 本当は、支えようとしてくれた隼人の手が当たっただけだったのかも。

 ────ということは、今、彼の口から語られたのがあの夜の真相なのだろうか。

 分からない。

 けれど、そういうことなら響也くんの態度やスタンスにも頷けるような気がする。
 何度も自分を責めていたことにも。

 何というか、隼人の言ったことはものすごくありえそうな話だと思えた。合点がいく。

(でも……じゃあ隼人は何なの?)

 眉根に力を込め、(いぶか)しむように彼を見つめてしまう。

 すべては隼人が仕組んだことなんじゃなかったのだろうか?

 わたしはまた惑わされている?
 騙されているだけ?

(もう分からなくなってきた……)

 いったい、何が真実なのだろう。
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