嘘と恋とシンデレラ

 指先がひどく冷たかった。
 心に空いた空洞(くうどう)を風が吹き抜けていく。

 何だか力が抜けて、立っているのがやっとだった。
 この感情は何だろう。彼に対する失望? 拒絶?

 最初のきっかけが響也くんだったと判明した以上、隼人に殺害という復讐目的があった、という前提も崩れた。

 隼人の計画でも偶然の事故でもないのなら、いったい何だったのだろう。

 わたしを殺したかったのは、響也くんなのだろうか?

(でも、あの写真……)

 背後に迫っていた隼人。
 頭に焼きついて離れない。

 たとえば最初にわたしを殴って突き落としたのが響也くんだとしても、昨日は違ったかもしれない。

 ふたりのうちどちらかを全面的に信用することも、完全に疑うことも出来なくなった。

 思ったより複雑に、それぞれの思惑が絡み合っているのかもしれない────。

「これだけじゃ信じられないよね。……分かってる、でも」

 彼は握り締めていた拳をほどき、わたしの両肩を掴んだ。
 添えるように優しく。

「僕がこころを好きな気持ちに嘘はないから」

 目線を合わせるように屈んで、まっすぐに見つめてくる。
 彼の双眸(そうぼう)は澄んでいるのに深くて、奥底までは見通せない。

「お願い、こころ。僕を信じて」

 その声に熱が込もったのが分かった。
 肩を滑った手に上腕を強く握り締められる。

「痛……っ」

「……あ、ごめん」

 思わず顔を歪めるけれど、決して響也くんの力が強かったせいではない。
 そのことに彼もすぐ気が付いた。

「……怪我、してる?」

 控えめに尋ねられ、顔を(そむ)ける。
 軽く身をよじって響也くんの腕から抜け出す。

「愛沢にやられたの?」

「分かんない……」

 首を左右に振ったけれど、彼は逆に(いきどお)った。
 顔をしかめ、短く息をつく。

「やっぱりあいつには近づくべきじゃない」

 (さと)すような口調だけど、硬い声は感情的だった。

「こころが傷つくだけ。何よりあいつはこころを殺そうとしてるんでしょ」

「…………」

「もういい、警察行こう」

 何も答えられないでいるうちに、響也くんがさっと(きびす)を返してしまう。

「でも、証拠も何もない。これだって隼人の仕業って決まったわけじゃないし」

 そう言うと、ぴたりと足を止めた。
 一瞬考えるように「じゃあ……」と俯く。

「分かった、僕が助けてあげる。あいつを殺して」
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