嘘と恋とシンデレラ
「今日は一緒に帰るよな?」
返答に窮した。
優しげな口調だけど有無を言わせない圧を感じる。
「……うん」
結局、機嫌を損ねるのが怖くて頷いてしまった。
不安になったものの、すぐに思い直す。
隼人は別に、復讐計画を企てて実行しているわけではないと分かったはず。
ちゃんと本当のことを話してくれたし、わたしが記憶のないふりをしても隠しごとをしなかった。
(そうだよ)
今となっては、嘘つきで隠しごとばかりの響也くんより信じられる存在かもしれない。
「よかった。じゃあまたあとで」
屈託のない笑みも、あっさりとした引き際も、なぜだか不気味に思えてしまう。
疑心暗鬼に慣れ過ぎて、不必要に深読みしているだけかもしれないけれど。
何となく、嵐の前の静けさみたいな不穏さが漂っていた。
◇
放課後、教室まで迎えに来てくれた隼人と合流し、並んで歩き出す。
彼の上機嫌さに引っかかりを覚えると同時に、意識が別の方向へ枝を伸ばしていた。
(響也くん……)
協力出来るならしたかった。
だけど、尋ねたことに何ひとつとして答えてくれない彼を、申し訳ないけれど信じる気にはなれない。
しかもわたしのことを意図的に殴ったと認めたも同然で、だけどその理由さえ教えてくれない。
推し量ることもままならないのに。
だから今日は一度も顔を合わせなかった。
昨日の時点でアカウントを追加し直してもいないから、メッセージも交わしていない。
これでいいのかどうか、正直分からない。
結局また隼人の思い通りになっている気がするけれど、彼に復讐という目的がなかったのなら、大して問題があるとは思えない。
要はわたしが彼との関係をどうしたいのか。
きっとそれ次第なのだろう。
「ん」
校門を潜ると、掌を差し出された。
ぶっきらぼうながら優しさも感じる。
わたしは記憶をなくしたことになっているけれど、彼の中では、関係は続いているみたい。
少なくともそれが隼人の意思。
応じるように手を重ねようとしたけれど、届く前に握られた。
力加減を知らないみたいに強く。痛いほど。
「ちょっと……」
無意味だと分かっていながら、たまらず抗議する。
黙れ、とでも言いたげに、ぐい、とすぐさま引っ張られた。
戸惑いながらその横顔を見上げれば、先ほどまでの上機嫌さなんて消え去っていた。
優しいのはまやかしだった。
(怒ってる)
ひと目でそれが分かるような、厳しく冷たい表情。
わたしのことなんて気にかけてもいない。