嘘と恋とシンデレラ

 やっと涙が止まってくれた。
 目の前に光が射し込んできたような気がする。

(……決めた)

 わたしはそっと、彼の背中に腕を回した。

 もう迷いたくない。
 響也くんを信じよう。

『そのときした話……お前が俺を庇って怪我したってのは嘘。あのとき何があったのかなんて知るか』

 結局、嘘つきは隼人だった。
 響也くんもまた、何かを隠して嘘をついているかもしれないけれど。

 それでも、違う。
 隼人は自分のための嘘だけれど、響也くんはわたしのための嘘だ。

『こころのためなら何でも出来るって言ったのも本心。きみには誰より幸せでいて欲しい』

 わたしのためにくれる優しさと強い覚悟は、最初から一度も揺らがなかった────。

「信じられなくてごめん……。大事なこと、色々忘れちゃってごめんね」

 いっそう腕に力を込める。
 ふっと柔らかい笑みが降ってくる。

「大丈夫、どんなこころもこころだよ。僕の大好きなこころ」

 春の陽射しみたいな想いに触れて、何だかくすぐったい気持ちになった。

 思わず笑みがこぼれる。
 空洞だらけだと思っていた心が満たされていくのを実感した。

 やっぱりわたしには、響也くんが必要だ。



 ────ややあってどちらからともなく離れると、不意に彼が(うれ)うような眼差しを注ぐ。

「……ねぇ、後悔してない?」

 何が言いたいのか、何を聞きたいのか、今の(、、)わたしにはその真意が覗けた。

「こころはどうしたいの?」

「わたし……」

 視線を落としたまま、慎重に言葉を選ぶ。

「怖かった、ずっと。自信がなくて、もの足りなくて」

 本心をさらけ出すのに不思議と緊張や抵抗感はなかった。
 相手が響也くんだから、かもしれない。

「愛されたかった。お姫様(ヒロイン)になりたかった。……今もそう思ってる」

 彼は黙ってわたしの言葉に耳を傾けていた。

 むしろ彼の方が緊張して見える。
 少なくとも冷静に、慎重に受け止めてくれているのが分かる。

「色々あったけど後悔はしてないよ。わたしの“気持ち”は変わってない」

 真剣さを測るみたいにじっとわたしの目を見つめたあと、静かに伏せてそのまま瞑目(めいもく)する。

 何らかの気弱な感情を吐き出すように小さく息をつき、再び目を開けるとそっと微笑んだ。

「……分かった。じゃあ、僕がこころを幸せにしてあげる」

 わたしは頷き返した。

 ────響也くんの手を取って、今度こそ隼人に別れを告げる。
 その覚悟を決めた。
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