嘘と恋とシンデレラ
     ◇



 お風呂に入る前、鏡にぼろぼろの自分を映してみた。

 額の皮下血腫(ひかけっしゅ)はもうほとんど治っているけれど、それ以外の傷が全然減らない。

 痣が消えないうちに新しい痣をつけられ、擦り傷や切り傷からは常に血が滲み続けた。
 どれが落下のときのもので、どれが隼人につけられたものかも分からない。

(隼人……)

『実はあのとき、俺もその場にいた』

 学食で話したことを思い出す。

『そのとき、あいつがバット片手に現れたんだよ。あいつはいきなり俺に殴りかかってきて……気付いたお前が咄嗟に庇ってくれた』

『え……っ』

『だけど当たりどころが悪くて、お前は意識を失った。それで、そのまま階段から────』

 あのときの真相について、何のためにそんな嘘をついたのだろう?

『そのときした話……お前が俺を庇って怪我したってのは嘘。あのとき何があったのかなんて知るか』

 痛くて辛い思いはしたけれど、ああやって高ぶってくれたお陰で口を滑らせてくれた。

 言われなきゃ信じていたかもしれない。
 わたしは(ほころ)びに気付いていなかったから。

(でも……。あれ?)

 ふと思い至った。

(どっちにしても、響也くんはわたしに怪我させたのを認めたってことだよね)

 少なくとも最初、記憶を失ったときの怪我は彼の仕業だったということ。
 本人も半ば認めていたはず。

 そのあと再び突き落としたのが誰なのかは、結局分からずじまいだけれど。
 ただ、あの写真からして────。

「!」

 そのとき、メッセージアプリの通知音が鳴った。

 相手は響也くんだ。
 今日の別れ際、追加し直しておいた。

【明日の朝、迎えに行くね】

【うん! ありがとう】

 何気なく返信してから、はたと気が付く。

「あれ?」

 芽生えた違和感が急速に膨れ上がっていく。
 隅の方で息を潜めていたはずの不安感を巻き込みながら。

(響也くんのアカウントって……)

 再び突き落とされてから病室で目覚めたとき、消したはずの彼からメッセージが来た。

 わたしのスマホを触ること自体は、ふたりとも可能だったと既に分かっている。

 だけど、響也くんにはそんな機会があっただろうか?
 いったい、どのタイミングで触れたんだろう。
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