嘘と恋とシンデレラ
     ◇



 翌朝、響也くんが約束通り迎えに来てくれた。
 彼と一緒に登校するのは何だか久しぶりな気がする。

 晴れた爽やかな朝、風のない穏やかな日和(ひより)、彼の隣────。
 なのに、心が落ち着かない。

 昨晩覚えた違和感というか疑問のせいで、もやもやと濃い(きり)が立ち込めていく。

(また、何か大事なことを見落としてるような)

 思わず不安気な眼差しをその横顔に注いでいると、ふと彼がこちらを向いた。

「あいつにはさっさと別れ切り出しとこう」

 それは文字通りの意味だろう。
 学校に着いてすぐ、とか。顔を合わせてすぐ、とか。
 確かにその方がいいような気がする。

 昨日、わたしが睡眠薬を盛ったことに気付かれているかもしれないし。
 そうじゃなくても、もう平然と接せられる自信はない。

「僕がついて一緒にいるから大丈夫。何かあったら守るよ」

「……分かった」

 こく、と頷いてみせる。
 スマホを取り出してメッセージアプリを開いた。

【話があるの。学校着いたら裏庭に来て】

 うまくいくだろうか。
 緊張で速まる鼓動をおさえるように胸に手を当てる。

 ぽん、と頭に響也くんの手が載った。
 はっと見上げると優しく微笑み返される。

 お陰で肩から力を抜くことが出来た。
 今なら、勇気を出して向き合えるような気がする。



     ◇



 裏庭のベンチに座って待っていると、やがて角から隼人が姿を現した。

 わたしはそっと立ち上がる。
 悠然(ゆうぜん)とした動作で響也くんも腰を上げた。

「……何でお前がいんの?」

 彼を見るなり隼人は不服そうに眉をひそめる。

 一方の響也くんは(きょう)がるように笑った。
 自分が選ばれたことで余裕が生まれたのかもしれない。

「身から出た(さび)

「あ?」

「今に分かるよ」

 彼はいつになく挑発的な態度をとった。
 隼人がいっそう苛立ち、空気が(とが)ったのを肌で感じながら、わたしは口を開く。

「……隼人、わたしと別れて」

 大きく息を吸ったけれど、声を出すのにはその半分も使わなかった。使えなかった。

 気丈(きじょう)に振る舞いたいのに、自信なさげになってしまう。

 彼は眉根を寄せ、顔をしかめた。
 理解出来ない、納得出来ない、と言いたげだ。
 その感情を前面に押し出している。
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