嘘と恋とシンデレラ
「わたし、身体中ぼろぼろなの。もうあんな痛い思いはしたくない」
「それは────」
「何度も何度も同じことの繰り返し。隼人はいつも、自分勝手な理由でわたしを傷つけてばっかり」
反論しかけた彼の声を負けじと遮る。
感じ方なんて関係ない。
わたしが並べ立てているのはただの事実だ。
そのうち分かってくれると思っていた。
いつか変わってくれると信じたかった。
でも昨日、そんな気持ちが完全に折れてしまった。
「もう限界。耐えられない」
ぎゅう、と両手を握り締めたまま顔を上げる。
「この前わたしを突き落としたのも、本当は隼人なんでしょ」
責めるようにまっすぐ見据えた。
どんな些細な動揺も見逃さないよう注意を払いながら。
「は……? 違ぇよ」
「嘘つかないで。もう分かってるから」
「だから違うって。俺じゃねぇよ」
あくまで白を切り通すつもりのようだ。
それも一切取り乱さず、かなり冷静に。というか、ただ困惑しているように見える。
ふと響也くんがスマホを片手に歩み出て、その画面を彼に突きつける。
恐らくそこには例の写真が表示されている。
「証拠は上がってるんだし、今さら言い逃れしないでよ? 態度次第では警察に突き出すから」
響也くんが言う。
隼人が何らかの反応をする前に、口を開く前に、気付けばわたしの足は動き出していた。
直観的なひらめきを自覚するより先に、思考に落とし込むより先に、身体が突き動かされる。
ほとんど無意識の行動だった。
「……こころ?」
向かい合うふたりの間に立ち、響也くんの手からスマホを取る。
そこに表示されているのは、やっぱりあの写真。
夜、歩道橋の上にいるわたしとその背後に迫る隼人。
改めてそれを目の当たりにして、一気に違和感が湧き上がった。
(これは……わたしが突き落とされる直前の写真、ってことだよね?)
こんな写真があるということは、その場に響也くんもいた、ということになる。
本当にわたしを心配してくれていたのなら、写真を撮ったりする前に助けに来てくれていたはずではないだろうか。
わたしが突き落とされるまで、何もせずにただ傍観していた?
心臓が早鐘を打つ。
波立った感情に揺さぶられる。
「待って。何か……おかしい」