嘘と恋とシンデレラ
他愛もない話をしながら学校までの道を歩いていく。
昨日、愛沢くんに一度案内してもらった道なのだけれど、そのときは閑散としていた。
しかし今日は時間帯もあって、同じ制服姿の人をよく見かける。
不思議と違う場所のように思えた。
「…………」
何となく緊張してきた。
わたしの居場所はあるのかな。
ちゃんと溶け込めるのかな。
着慣れているはずの制服が、ずしりと重たく感じられる。
「心配しないで、こころ。困ったときは僕のところにおいで」
何も言わなくても的確に見抜かれた。
その言葉に張っていた気持ちが癒され、心が軽くなっていく。
不安で締めつけられていたのがほどけていくみたい。
「……ありがとう」
見知らぬ異世界に迷い込んでも、こんなふうによりどころがあれば心強い。
彼の存在にはやっぱり救われた。
「うん。一応、学校にも連絡入れてあるから。こころの怪我と記憶のこと」
「えっ、いつの間に────」
「昨日、病院から帰ってから。こころはそれどころじゃなかったと思うから、僕が代わりに」
にっこりと微笑む星野くん。
どこまで優しく気を回してくれるのだろう。
ただ、彼に関しては記憶そのものよりも日常を取り戻すために尽くしてくれている感じがする。
ありがたい反面、以前のことは思い出さなくていい、とまたしても遠回しに牽制されているようでもあった。
それがわたしの心情を気遣ってのことなら素直に感謝するべきだけれど、どうしても判断がつかない。
その行動原理は、“偽物”にも通ずるような気がして……。
◇
「こころの教室はここだよ」
3階まで上がり、廊下で足を止めた星野くんにならう。
一番手前の教室だ。“2-A”とある。
「入ろっか。おいで」
少し躊躇ってしまうが、ここで二の足を踏んではいられない。
彼について教室へ入ると、朝のささやかな喧騒が耳についた。
きょろきょろと辺りを見回す。
「星野くんも同じクラスなの?」
「ううん、残念ながらね。僕はC組」
「そうなんだ……」
同じだったらよかったのに。
そんな落胆が全面的に声に乗ったのが自分でも分かる。
彼がいないとなると、この教室も何だか心細いような気になる。
「……寂しいの?」
振り向いた星野くんがからかうように笑う。
どき、と心臓が跳ねた。そんな笑い方もするんだ。
「そういうわけじゃ────」
「大丈夫。教室は近いし、いつでも会えるよ」
咄嗟に反論しかけたものの、すべてを見透かしたような彼はさらりと流して取り合わなかった。
(そっか、そうだよね)
ひとつ挟んで隣の教室なんだし、会おうと思えばすぐに向かえる。
そんな事実に安堵することが出来た。
やがて星野くんが足を止める。
窓際の一番後ろの席。
「ここがきみの席だよ」
そう言いながら椅子を引いてくれた。
わたしは鞄を机の横にかけ、促されるままに腰を下ろす。
星野くんは正面に回り込み、空いている前の席に座った。
わたしの机に腕を乗せ、様子を窺うようにじっと見つめてくる。
「……よかった」
気付けばわたしは小さく呟いていた。