嘘と恋とシンデレラ
どきどきしながら返答を待ったけれど、彼女は苦い表情で肩をすくめた。
「あー、ごめん。そこまでは聞けなかったんだよねー」
「聞けなかったって……わたしから?」
「そうそう。この子ってば恋話好きなんだけどデリカシーなくて、こころに無理やり聞き出してたんだよね」
小鳥ちゃんが呆れたような顔で口を挟んだ。
「ちょっと、そんな悪い言い方しないでよね。こころに誤解される!」
「本当のことじゃん。こころはそういうことあんまり積極的に話すタイプじゃないのにさー」
(そういうことか……)
確かに小鳥ちゃんはそう言っていた。
なのにわたしの恋愛事情を知っている友だちがいるなんて妙だと思った。
以前、彼女にはあれこれ無遠慮に踏み込まれたのかもしれないけれど、逆に今はそれで助かった。
わたしが抱いていた理想や恋愛観を知ることが出来たから。
(“王子様”……か)
遠慮なしに言い合うふたりを差し置いて、わたしは思考を巡らせる。
星野くんと愛沢くんを見ている限り、そういう印象を受けるのはやっぱり星野くんの方だ。
見た目の雰囲気も、紳士的で優しい性格も、甘い微笑みも、何だか童話の中の王子様みたいで。
(でも)
彼女の言葉を思い返す。
『で、どうなの? 彼、今度こそ運命の王子様だった?』
“今度こそ”ということは、わたしはふたりのうちどちらにも“王子様”の要素を見出していたわけだ。
どちらがそうでもおかしくない。
わたしが“王子様”に求めていたものは何だったのだろう?
◇
放課後になり、帰りのホームルームが終わる。
気の緩んだ喧騒に包まれながら思わず息をついた。
(疲れた……)
思った通り、わたしを知っている人のいる学校では色々な情報を得ることが出来た。
だけどその分、考えることも増えて。
「お疲れ、こころ」
「ありがとう。小鳥ちゃんも」
振り向いた彼女に笑い返す。
色々な場面で助けられた。小鳥ちゃんがいてくれて、彼女と友だちでよかった。
「一緒に帰りたいところだけど、ごめん。今日部活なんだー」
小鳥ちゃんが申し訳なさそうに眉を下げた。
「そんな、全然大丈夫だよ! 頑張ってね」
「ありがとー。また明日ね」
手を振りながら見送った。
この感じ、何だか身体に染み込んでいる。
授業を受けて、友だちと喋って、一緒にお昼を食べて……。
そんな日常に身を置いたことで、いっそうこの場に馴染み始めているような気がした。
自分がちゃんとここにいたのだという感覚。
その認識が浸透して溶け込んでいく。
今朝よりいくらか気持ちが楽になったのを実感しつつ、鞄を手に立ち上がった。
(どうしよう?)
ふと迷いが生じる。
星野くんや愛沢くんに、会いにいくべきだろうか。