嘘と恋とシンデレラ

(でも、じゃあ星野くんが偽物? ストーカー?)

 愛沢くんを本物だと仮定するなら、星野くんのことはそう位置づけせざるを得ない。

 優しげな微笑みと眼差しが頭に浮かぶ。
 やっぱり、とてもそうは思えない……。

(だめだ)

 項垂(うなだ)れるような思いで目を伏せた。

 結局、彼らを信じきることも疑いきることも出来ないで、堂々巡りを繰り返しているだけのような気がする。

 今の段階では、あまりにも情報が少なくてほとんど心象でしかない。
 その上で、結論を出すことを拒んでいるだけ。



「……こころ」

 不意に呼びかけられ、はっと我に返った。
 その声色や表情には色も温度もなかった。

「なに考えてる?」

「え……」

(うわ)の空じゃん、何か。……もしかして、あいつのこと考えてんの?」

 すぐに否定するべきだと頭では分かっていたのに、咄嗟に声が出なかった。

 彼の態度がみるみる不機嫌なものへと変わっていくのを肌で感じ取り、焦った。怯んでしまう。

「ち、違うよ。ちょっとぼんやりしちゃっただけ」

「そんなに思い詰めた顔して?」

 愛沢くんが足を止める。
 流れるような動作で顎をすくわれ、その視線に捕まった。

「……どうせ今日だって、本当はあいつに来て欲しかったとか思ってんだろ」

「そんなこと!」

 ない、とはっきり言い返せるだろうか。
 ひとりでいたいとは思っていたけれど。

 来てくれたのが星野くんだったら、きっとわたしはまた違う心情を抱いて違う態度をとっていたはずだ。

 少なくとも安心感を覚えていただろう。
 今みたいに気を張ることはなかった。

 言葉を続けられないでいると、ふっと彼の手が離れていく。

「俺のことは何とも思ってないんだ? だから平気でそんな態度とれるんだな」

「ちが……、そういうことじゃ────」

「お前ってひどいな。俺がどんな気持ちで……っ」

 愛沢くんが今度はわたしの手首を掴む。

 痛いほどではないけれど、昨日のことを思い出して緊迫感が走った。

 傷ついたような顔で詰め寄ってくる。
 その表情が突き刺さり、心が(えぐ)れるような気がした。

「……っ」

(わたしが忘れてるせいで────)

 愛沢くんが何を思って、何を言いたいのか、今のわたしには半分も分からない。

 しかし、だからこそきっと誤解して傷つけてしまっているのだということは分かる。

 言葉が見つからないでいるうちに、ざっと靴裏が細かな砂利(じゃり)を弾くような音がした。

「……何してるの?」
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