嘘と恋とシンデレラ
つい訝しむような声がこぼれ落ちる。
眉を寄せ、視線を彷徨わせた。
(何もない)
カメラロールの中には写真も動画も何ひとつとして入っていなかった。
そんなことがあるのだろうか?
不自然な現実を目の当たりにし、違和感が募る。
嫌な予感を覚えながら、今度はメッセージアプリを開いてみた。
トーク履歴が残っているのは星野くんと愛沢くんだけだ。
しかし、内容は無に等しかった。
星野くんの方は病室で目覚めた日のそれが最初。
愛沢くんの方は、昨日の“迎えに行く”というものが最初。
どちらもそれ以前のやり取りは残っていない。
「何これ……」
ざわざわと胸の内が騒ぎ始める。
電話の履歴もブラウザの検索や閲覧履歴も、何ひとつとして残っていない。
結局、何の手がかりも掴めなかった。
(おかしい)
普通に考えて、こんなのありえない。
まるで、あらかじめこうなることを────何も知らないわたしが戸惑いに明け暮れることを、狙っていたみたい。
そうじゃなきゃ、スマホがこんな空っぽになるわけがない。
以前のわたしが自分でやったのだろうか。
あるいは誰かに……愛沢くんや星野くんにやられたのだろうか。
作為的なものを感じ、底冷えするような不安感が込み上げてくる。
こうなってくると、額の怪我自体、偶然じゃない可能性が────。
「やっぱりここにいた」
突然聞こえてきた声に、どきりと心臓が跳ねた。
はっと顔をもたげると、公園の出入口のところに星野くんが立っていた。
「星野くん……」
小さな声で呟くと、にっこりと柔らかく微笑み返される。
その笑顔や優しさを全面的に信じることは出来ないものの、少なくとも今は、来てくれたのが愛沢くんじゃなくてほっとしてしまった。
「隣、いい?」
歩み寄ってきた彼が首を傾げる。
「あ……うん」
「ありがと」
人ひとり分の間を空け、腰を下ろす星野くん。
わたしの心情に合わせて、気詰まりしない距離感を保ってくれている。
それだけで心の壁が低くなる。
「心配いらないからね。あいつは来てないよ」
その言葉にふと愛沢くんの鋭い眼差しを思い出し、萎縮した。
露骨に眉をひそめてしまう。
また、真っ向から衝突するふたりに圧倒されたのもあって、星野くんに対してもたじろぐのを隠しきれなかった。
「……さっきは怖がらせたよね。ごめんね」
「え」
「こころを助けたかっただけなんだけど、逆に追い詰めちゃったかな」