嘘と恋とシンデレラ

 つい(いぶか)しむような声がこぼれ落ちる。
 眉を寄せ、視線を彷徨わせた。

(何もない)

 カメラロールの中には写真も動画も何ひとつとして入っていなかった。

 そんなことがあるのだろうか?
 不自然な現実を目の当たりにし、違和感が(つの)る。

 嫌な予感を覚えながら、今度はメッセージアプリを開いてみた。

 トーク履歴が残っているのは星野くんと愛沢くんだけだ。
 しかし、内容は()に等しかった。

 星野くんの方は病室で目覚めた日のそれが最初。
 愛沢くんの方は、昨日の“迎えに行く”というものが最初。

 どちらもそれ以前のやり取りは残っていない。

「何これ……」

 ざわざわと胸の内が騒ぎ始める。

 電話の履歴もブラウザの検索や閲覧履歴も、何ひとつとして残っていない。
 結局、何の手がかりも掴めなかった。

(おかしい)

 普通に考えて、こんなのありえない。

 まるで、あらかじめこうなること(、、、、、、)を────何も知らないわたしが戸惑いに明け暮れることを、狙っていたみたい。

 そうじゃなきゃ、スマホがこんな空っぽになるわけがない。

 以前のわたしが自分でやったのだろうか。
 あるいは誰かに……愛沢くんや星野くんにやられたのだろうか。

 作為(さくい)的なものを感じ、底冷(そこび)えするような不安感が込み上げてくる。

 こうなってくると、額の怪我自体、偶然じゃない可能性が────。



「やっぱりここにいた」

 突然聞こえてきた声に、どきりと心臓が跳ねた。

 はっと顔をもたげると、公園の出入口のところに星野くんが立っていた。

「星野くん……」

 小さな声で呟くと、にっこりと柔らかく微笑み返される。

 その笑顔や優しさを全面的に信じることは出来ないものの、少なくとも今は、来てくれたのが愛沢くんじゃなくてほっとしてしまった。

「隣、いい?」

 歩み寄ってきた彼が首を傾げる。

「あ……うん」

「ありがと」

 人ひとり分の間を空け、腰を下ろす星野くん。

 わたしの心情に合わせて、気詰(きづ)まりしない距離感を保ってくれている。
 それだけで心の壁が低くなる。

「心配いらないからね。あいつは来てないよ」

 その言葉にふと愛沢くんの鋭い眼差しを思い出し、萎縮(いしゅく)した。
 露骨(ろこつ)に眉をひそめてしまう。

 また、真っ向から衝突するふたりに圧倒されたのもあって、星野くんに対してもたじろぐのを隠しきれなかった。

「……さっきは怖がらせたよね。ごめんね」

「え」

「こころを助けたかっただけなんだけど、逆に追い詰めちゃったかな」
< 29 / 152 >

この作品をシェア

pagetop