嘘と恋とシンデレラ
彼は不安気な面持ちで窺うように言う。
わたしは慌てて首を横に振った。
「そんなことないよ! ……星野くんが来てくれて、正直安心したっていうか」
愛沢くんが悪いわけじゃないけれど、今のわたしが気を許せる相手ではないこともまた事実なのだ。
「本当? ならよかった。困らせないか不安だったけど、そうじゃなかったなら」
彼の表情が晴れる。
やっぱり、いつだって星野くんの中で主軸になるのはわたしなんだ。
(優しい、けど……)
このままその優しさに溺れて、身を委ねてしまうのは簡単だ。
だけど、そうやって後先を考えないのはすべてを諦めて投げ出すことに等しかった。
彼にも看過出来ない怪しいところはいくつかある。
未だに引っかかっているのは、病室で話したときのことだ。
『……怖かった。もう、不安で。あのときは本当にどうしようかと』
『……何の話?』
『それは、頭の────』
わたしの額の怪我について、何やら経緯を知っているような感じだった。
その後の態度からしても、可能性を見逃すことは出来ない。
「あのさ、星野くん」
こんなによくしてもらっておいて疑いをかけるような真似はしたくなかった。
けれど、信じたいからこそ確かめておかなくちゃならない。
「ん?」
「わたしのこの怪我なんだけど……」
額のガーゼに触れて示す。
「もしかして、何か知ってたりする?」
思い切って尋ねた。
推し量るように彼の双眸を見据える。
『僕も過去の話はしないよ。きみを追い詰めたくないから』
ちゃんと、正直に答えて欲しい。
その言葉が予防線ではないと証明して欲しい。
彼自身がわたしの本物の恋人だと主張するのなら。
「それ、は────」
一瞬、視線を彷徨わせた。
何かを迷うように言葉を切って前を向くと、その強張った横顔に影がさす。
つい真剣に見つめてしまった。
どんな躊躇や葛藤に邪魔されているんだろう?
しばらく黙り込んでいた彼は、ややあってこちらに視線を戻す。
わたしの目をまっすぐ見返してきた。
「今からする話、信じてくれる?」
病室で聞いたときのように逃げることはしないと決めたらしい。
少なくともその誠実さは本物みたいだ。
「……うん、信じる」
わたしは頷き、嘘をついた。
そう言わないと、話もしてくれなくなるかもしれなかったから。
心象だけで信じるかどうかを決めるほど盲目的にはなっていない。
それでも星野くんは少しだけほっとした様子で話し始める。
「こころはね、もともとあいつと付き合ってたんだ」