嘘と恋とシンデレラ

 すべてを把握(はあく)出来たわけではないが、今話してくれたことぜんぶがぜんぶ真実ではないのだろう。

 (ほころ)びが見え隠れしているように思える。

 意図的に何かを隠したのか、あるいはそもそもまったくのでたらめなのか。
 いずれにしても嘘をつくということは、隠さなきゃいけない何かがある、ということなんだ。

 やっぱり、星野くんのことも信じるべきじゃないのかもしれない。

 温度を失った指先が冷たくなった。

(怖い……)

 知りたい気持ちは山々だけれど、今はこれ以上追及する勇気が出ない。

 彼を信じられなくなること、偽物だという可能性が出てくることを恐れてしまっていた。

 感情や願望に左右されるべきじゃない。
 分かっていても、今は星野くんを失いたくなくて。

「……ありがとう、教えてくれて」

 なるべく自然に笑いたかったのに、浮かべた笑顔はぎこちなくなった。
 惑い、揺れる心を隠せない。

「ううん」

 彼は小さく微笑み、首を左右に振った。
 それ以上何も言わない。

 過去の話はしない。
 というより、したくない(、、、、、)のではないだろうか。

 ふと、そんなことを思った。

 “今”のことはとことん気にかけてくれるのに、以前の話をするのには消極的だ。

 何かを隠している。

 わたしに知られたら、あるいは思い出されたら不都合なことがきっとあるんだ。



「……そういえば、どうしてここにいるって分かったの?」

 わたしを捜していて偶然辿り着いたとは、さすがに思えない。

「僕たちが付き合う前、ここでよくこころからの相談を聞いてたんだ。ここは逃げ場所だったんだよ」

 そういうことか、と納得した。
 “やっぱりここにいた”という言葉にも頷ける。

「そうだったんだ」

 わたしはそのことを忘れてしまっていたけれど、身体は覚えていたみたいだ。
 無意識にここへ逃げてくるなんて。

「うん、辛くなったらまたいつでも逃げておいで。こころのよりどころは僕が守っておくから」

 疑念(ぎねん)と不安で()り固まっていた心が、ふわりとほどけて軽くなっていくのが分かる。

 星野くんの優しい笑顔や柔らかい態度が癒してくれるお陰で、一緒にいるといつも落ち着くことが出来た。

 そうは言っても、額の怪我やわたしたちの関係については、愛沢くんの話も聞いてみないと何とも言えない。

 希望や願望に飲み込まれないよう、現実に向き合わないと。

 頭ではちゃんと分かっている。
 ────だけど、自分の気持ちに嘘はつけなかった。

「星野くんもそうだって言ったら……?」
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