嘘と恋とシンデレラ

 愛沢くんはそのうち普段の調子を取り戻したものの、わたしのスマホをすぐに返そうとはしなかった。

 何やらしばらく操作したのち、(いぶか)しむように呟く。

「……変だな、これ。何にも入ってないじゃん」

 恐らく今朝のわたしのように、通話履歴やアルバムなどをチェックしたのだろう。
 スマホが空っぽであることは、彼も知らなかったみたいだ。

(……もしかして)

 愛沢くんによる監視まがいの行動は、以前からあったのかもしれない。

 それを危惧したわたしは、対策としてあらかじめ空っぽにしていたのかも。
 そう思ったけれど、彼はさらに続ける。

「記憶なくす前はこんなことなかったのに」

 聞き流せないひとりごとだった。

 どきりとする。
 本当に以前からされていたんだ。

 隙をなくすように常にそばにいて、スマホの中身までチェックして。
 それがわたしたちの“日常”だった?

(それが普通なの……?)

 いずれにせよ、少なくともひとつだけ分かったことがある。

 わたしのスマホが空っぽだったのは、愛沢くんの仕業ではなかったということ。

 もちろん、彼が嘘をついていなければ、の話だけれど────。



     ◇



 あっという間に放課後になった。
 思った通り、すぐに愛沢くんが姿を現した。

「帰ろうぜ、こころ」

「うん……」

 頷くほかにないのだけれど、星野くんに対する申し訳なさが(つの)って止まない。

 一緒にいて欲しい、と自分から言ったくせに、こんな形で裏切ることになるなんて。

 一応連絡はしたものの、アカウントごと消えてしまったせいで返信も確かめられない。

 でも想像がつく。
 彼なら何も聞かずに引き下がるのだろう。

 愛沢くんと違って、星野くんはあまり干渉してこない。

(今は……)

 無理にでも来てくれたらよかったのに。

 なんて思う傍ら、そんな危なっかしい選択をしないでくれてよかったとも思う。



 結局、星野くんとは会えないまま、ふたりで学校を後にした。

 校門を出たとき、ずっと尋ねようとタイミングを計っていたことを、意を決して切り出す。

「ねぇ、隼人」

「なに?」

「わたしの傷って────」
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