嘘と恋とシンデレラ
◇
窓の外は夜に染まり、静かな時間が流れていた。
だけどその静けさに身を委ねられるほど、わたしの感情は落ち着いていない。
(うーん……)
ぽす、と自室のベッドに腰を下ろす。
ふたりから聞いた話を整理しようと考えを巡らせた。
『たぶん、それはあいつにやられたんだと思う』
『あの日、きみは僕のところに逃げてきて“助けて”って。頭から血を流して、そのまま意識を失って────』
わたしが額を怪我したとき、本当はその場にいたようだったのに、改めて聞くと濁した星野くん。
『俺が間に入ってどうにか別れられたんだけど、あいつしつこくて……。こころが俺と付き合ったって知ってキレたんだろ』
『それが許せなくて、あいつはお前を殴った。それで突き落とされた』
意識のない間ずっとわたしに張りついていて、その怪我の“瞬間”を克明に語っていた愛沢くん。
そもそも対立している時点で、両方を信じるという選択肢はない。
その点は最初からそうだ。
どちらかは必ず嘘をついていて、わたしを騙して丸め込もうとしている。
ふたりの話を聞き、どちらがより怪しいかと言えば、現段階では正直答えなんて出せない。
いずれも引っかかりを覚えたのは確かだからだ。
中でも特に気にかかっているのは、愛沢くんの口にした言葉。
「わたし、突き落とされた……?」
階段から転落したのは、本当に誰かに突き落とされたからなのだろうか。
「!」
そう思い至った瞬間、ずき、と頭が痛んだ。
傷ではなく、内側に響くような重たい痛みが突き抜ける。
砂を撒いたみたいに不鮮明な光景が脳裏をちらつき、そのたび焼けただれるような錯覚を覚えた。
(何これ……)
────夜、歩道橋の上に立っているわたし。
どん、と背中に衝撃を感じると同時に身体が宙に浮いた。
視界が反転したかと思うと、全身を打ちつけながら階段を転がり落ちていく────。
……その先のことは分からない。
きっとそこで意識をなくしたのだ。
「……っ」
震える呼吸を繰り返し、冷たくなった指先を握り締める。
不確かだけれど、恐らく想像なんかじゃない。
今蘇ってきたのは、きっと失った記憶の断片だろう。
「…………」
星野くんか愛沢くん。
わたしは本当に、どちらかに階段から突き落とされた?
窓の外は夜に染まり、静かな時間が流れていた。
だけどその静けさに身を委ねられるほど、わたしの感情は落ち着いていない。
(うーん……)
ぽす、と自室のベッドに腰を下ろす。
ふたりから聞いた話を整理しようと考えを巡らせた。
『たぶん、それはあいつにやられたんだと思う』
『あの日、きみは僕のところに逃げてきて“助けて”って。頭から血を流して、そのまま意識を失って────』
わたしが額を怪我したとき、本当はその場にいたようだったのに、改めて聞くと濁した星野くん。
『俺が間に入ってどうにか別れられたんだけど、あいつしつこくて……。こころが俺と付き合ったって知ってキレたんだろ』
『それが許せなくて、あいつはお前を殴った。それで突き落とされた』
意識のない間ずっとわたしに張りついていて、その怪我の“瞬間”を克明に語っていた愛沢くん。
そもそも対立している時点で、両方を信じるという選択肢はない。
その点は最初からそうだ。
どちらかは必ず嘘をついていて、わたしを騙して丸め込もうとしている。
ふたりの話を聞き、どちらがより怪しいかと言えば、現段階では正直答えなんて出せない。
いずれも引っかかりを覚えたのは確かだからだ。
中でも特に気にかかっているのは、愛沢くんの口にした言葉。
「わたし、突き落とされた……?」
階段から転落したのは、本当に誰かに突き落とされたからなのだろうか。
「!」
そう思い至った瞬間、ずき、と頭が痛んだ。
傷ではなく、内側に響くような重たい痛みが突き抜ける。
砂を撒いたみたいに不鮮明な光景が脳裏をちらつき、そのたび焼けただれるような錯覚を覚えた。
(何これ……)
────夜、歩道橋の上に立っているわたし。
どん、と背中に衝撃を感じると同時に身体が宙に浮いた。
視界が反転したかと思うと、全身を打ちつけながら階段を転がり落ちていく────。
……その先のことは分からない。
きっとそこで意識をなくしたのだ。
「……っ」
震える呼吸を繰り返し、冷たくなった指先を握り締める。
不確かだけれど、恐らく想像なんかじゃない。
今蘇ってきたのは、きっと失った記憶の断片だろう。
「…………」
星野くんか愛沢くん。
わたしは本当に、どちらかに階段から突き落とされた?