嘘と恋とシンデレラ
第二章 歪曲
第6話
否応なしに愛沢くんと過ごす時間が増えた。
朝も帰りも待ち伏せされてしまい、昼休みを含めた休み時間には必ずわたしのところへ来る。
逃げ場なんてない。
当然ながら星野くんと話す機会もなくなり、行動はかなり制限されていた。
分かりやすく脅されているわけじゃない。
だけど、だからこそ嫌でも察するものがあった。
従わないと、意に沿わないとどんな目に遭うのか。
予感はほとんど確信に変わっていて、彼との“日常”は少しずつわたしの心を蝕み始めていた。
(普通……じゃないよね)
平気だと思い込もうとした。
不器用で嫉妬深いと言う彼なりの愛情表現なのだと、分かろうとした。
しかし、愛沢くんの態度は尋常ではない。
日に日にそんな思いが強まって、不信感へと繋がっていく。
「落としたよ」
「あ、本当だ。ありがと、灰谷さん」
クラスメートの男の子の落としものを拾ったり。
「こころ、聞いてよ。昨日ね────」
「なになに?」
小鳥ちゃんと何てことのない会話を交わしたり。
そんな些細なやり取りを交わすだけで、彼はその都度機嫌を悪くするのだ。
そして、それをわたしに分からせないと気が済まないみたいだ。
昼休み、いつも通りわたしの席へとやって来る愛沢くん。
ばん、と強く机の天板を叩いた。
驚いてびくりと肩が跳ねる。
怖々としてしまいながら見上げた。
「……俺以外のやつと話すなよ」
「え……」
さすがに冗談であって欲しかったけれど、苛立ちを募らせたような眼差しは真剣そのものだった。
本気であることを物語っている。
「そんなわけにいかないよ」
わたしは困ったように苦く笑う。
だけど次の瞬間には、彼に顎をすくわれていた。
「返事は?」
わたしの反論はまるごと無視だ。
自分にとって都合の悪いことはぜんぶ、その耳に届くこともなければ心に響くこともないらしい。
当然ながら、受け入れるつもりも。
「…………」
わたしは胸の内にもやもやが広がっていくのを感じながら、そっと彼の手を押しのけるように払った。
納得出来ない。
だけど、反論する勇気はない。
せめて“返事をしない”というのが、今出来る最大限の抵抗だった。
以前のわたしのことは知らないけれど、今のわたしは愛沢くんの求める従順さなんて持ち合わせていない。
けれど、彼は終始そんな調子だった。
異性のみならず同性の友だちでさえ、わたしが話すと嫌な顔をする。
何においても愛沢くんを優先しないと機嫌を損ねるのだ。
お陰で星野くんと接する隙はもう完全に見失っていた。
(それどころか、わたしの自由でさえ……)
◇
放課後も毎日愛沢くんと過ごすことを余儀なくされていた。
どこかへ出かけたり、彼の家へ行ったり……。
後者の方が多い。その方が楽みたいだ。
何をするわけでもないけれど、愛沢くんは一緒にいるだけで満足そうだった。
わたしを直接見張っていられるから。
自分の手元に留めておけるから。
(……でも)