嘘と恋とシンデレラ
彼のああいう苛烈な一面は、不安の裏返しだと思うから。
わたしが離れていかないか、星野くんに取り込まれないか、自分が嫌われないか……不安なんだ。
だから、ただ必死になっていただけ。
だったら────。
「わたしは隼人を信じてるよ。だからこうしてずっと一緒にいる」
本心を押し殺し、愛沢くんの望むわたしを演じよう。
そうして油断させ手懐けてしまえば、かなり楽に動けるようになる。
彼が脅威じゃなくなる。
「こころ……」
「これからもそばにいてくれる?」
そっと見上げてみる。
愛沢くんは少し驚いたように目を見張ったあと、嬉しそうに破顔した。
「当たり前だろ」
くしゃりと頭を撫でられる。
「お前こそ、俺から離れたら許さないから」
彼の顔に強気な微笑が宿った。
「俺だけ見てろよ」
その目にはとっくにわたししかいなくて。
きっと同じだけの想いが返ってこないと不安になってしまうんだ。
「うん。……もうよそ見なんてしないよ」
以前の愛沢くんの言葉を借りて答える。
彼はいっそう満足そうに笑みを深めた。
◇
昼休みを迎えた。
高まった緊張からますます鼓動が速まる。
(出来ればこの時間中に星野くんと話したい)
ポーチの中に忍ばせていた、ジップつきの小さな袋を取り出す。
中身は粉々になった睡眠薬。
タイミングさえ掴めれば────。
「こころ」
不意に呼びかけられ、はっと顔を上げた。
教室の戸枠のところに愛沢くんが立っている。
隠すように咄嗟に袋を握り締めた。
「なあなあ、さっきさ────」
いつものように小鳥ちゃんの席を借り、わたしに向き直る。
彼の機嫌は悪くない。
今朝のこともあってか、むしろ普段よりいいくらい。
(だけど……)
“少しでいいからひとりにして”なんて頼んだところで許してはくれないだろう。
そんなふうに馬鹿正直に願い出ても、愛沢くんの家で起きたいざこざの二の舞になるのが関の山だ。
せっかく順調に積み上げてきた信用を自ら壊してしまう。
(うまくやるしかない)
今日の我慢はこのための布石だったのだから。
ちら、と愛沢くんの持ってきたペットボトル入りの水を見やる。
やっぱり、タイミングさえ掴めれば難しくないはず。
お手洗いとかに立ってくれたら、なんて考えていると、ちょうど誰かの声が響いてきた。
「あ、いたいた。隼人ー」