嘘と恋とシンデレラ
     ◇



 あっという間に放課後になり、ホームルームが終わると思わず息をついた。

(結局、何も掴めなかった)

 愛沢くんに薬まで盛って、あんなに危険な橋を渡ったというのに、求めていた答えはひとつとして得られていない。

「こころ、帰ろうぜー」

 いつも通り、愛沢くんが迎えに来た。
 わたしは立ち上がると鞄を手に教室を出る。

「眠気は大丈夫?」

「あー、もう全然。5時間目サボって寝てたらすっきりした」

 なんて笑う彼の顔は確かに晴れやかだ。
 わたしの仕業だったと疑っている様子は微塵(みじん)もない。

(……仕方ない、か)

 何度も同じ手は使えない。
 とりあえずは愛沢くんから情報を得る方向にシフトした方がいいかもしれない。
 彼相手なら時間に追われることもないし。

 星野くんを探るチャンスは、またそのうちどこかで巡ってくるはず。



 昇降口を抜け、校門を潜った。
 ふと昼休みのことが蘇ってきて、歩速(ほそく)が落ちる。

『信じて欲しい。本気で好きなんだよ』

『こころのためなら何でも出来るって言ったのも本心。きみには誰より幸せでいて欲しいと思ってる』

 星野くんが真正面からはっきりと伝えてくれた思いの(たけ)
 信じていいのかは分からないけれど、不安定な心に優しく響いたのは確かで。

「…………」

 何となく、隣を歩く愛沢くんを見上げた。

 彼は果たして、本当にわたしを大切に思ってくれているのだろうか。

 すべてではないけれど、星野くんの言っていたことは理解出来る。その気持ちは分かる。
 わたしも、好きな人には幸せでいて欲しいと思うから。

(でも、愛沢くんは……?)

 思い返してみても、彼の行動は基本的に自分本位なものばかりだ。

 いつだって自分の“好き”を押し通して、それが叶わないと無理やりにでも従わせようとして。

 わたしを怖がらせてでも、追い詰めてでも、いつも自身の意思を優先する。

 とても相手(わたし)を思いやっているとは言えない。

 今だってそうだ。
 彼の()いる“当たり前”に従って一緒にいるだけで、そこにわたしの意思があるわけじゃない。
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