嘘と恋とシンデレラ

「ねぇ、隼人」

 考えれば考えるほど、不自然な気がしてくる。

 お互いにお互いの隣が居場所として相応(ふさわ)しいのか、自信が持てなくなってくる。

「わたしのどこが好きなの?」

 彼がここにいるのは、わたしを束縛する理由は、本当に好意なのだろうか。

「…………」

 振り向いた愛沢くんは、うっとうしそうにため息をついた。
 眉をひそめ、露骨(ろこつ)に不機嫌そうな表情を浮かべる。

「なに? 信用してないの?」

「そういうわけじゃないけど……!」

 取り(つくろ)うように慌てて言った。
 焦る反面、うんざりする。

 いつもこうだ。
 何か気に入らないと、平気で脅して思い通りにしようとする。

 けれど、今は外だし人目がある。
 いつもより少しは踏み込めるかもしれない。

 このまま平行線を辿って愛沢くんの家に着いたら彼の独壇場(どくだんじょう)になって、わたしにはどんな選択肢も拒否権もなくなる。

 これまで何とか(まぬが)れたきたけれど、暴力という最悪の選択肢まで与えてしまうかもしれない。

 その前に聞きたいことは聞いておくべきだ。
 気になったなら、それを(おく)せずぶつけてみないと。

 あとで自分自身にしわ寄せが及ぶかもしれないけれど。

 もうこれ以上、後回しに出来ることなんてないのだから。
 恐れて逃げているだけじゃ真相には辿り着けない。

 植えつけられた恐怖とも呼べる抵抗感に怯みながらも、わたしは毅然(きぜん)と愛沢くんを見やった。

「言葉にしてくれなきゃ分かんないの。わたしだって愛されてるか不安になるんだよ」

 考える前にほとんど勝手に口からこぼれていた。
 気がついたときにはそう言い終えていた。

(……あれ?)

 胸の内に奇妙な感覚が萌芽(ほうが)する。

(何か、前にもこんなこと言ったような……)

 ざわざわと心が騒ぎ出した。
 眉根に力が込もる。

 “前”っていつだっけ?
 そのとき何があったんだっけ?

 そもそも────。

(誰に言ったんだろう?)

 愛沢くんか星野くん、その2択には間違いないような気がするけれど。

 今はこのデジャヴ的な違和感を覚えるだけで、詳しい状況なんかは何も思い出せない。

 だけど、漠然(ばくぜん)と蘇ってきたことがある。
 というよりは、再認識したような感覚に近い。

 愛されているか不安になる────その言いようのない波立った感情がすごく嫌いだった。

 星野くんの言っていた通り、わたしは誰かのお姫様になりたくて。王子様に愛されたくて。
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