嘘と恋とシンデレラ
どうしても星野くんの主張からは“突き落とされた”という部分に繋がらない気がする。
そもそも彼の口からは“歩道橋”や“階段”という言葉が一切出てこなかった。
意図的に隠したのかもしれない。
そのせいで曖昧な説明になっていたのかも。
いずれにしても星野くんの言っていたことが本当なら、通報してくれたのは彼だということになる。
だとしたら、少なくともそのとき何があったのか、一部始終を教えてくれたっていいはずなのに。
“歩道橋”だとか“階段”だとか、それらのワードが出てこない方がむしろ不自然だ。
今思えば、わたしが最初に目覚めたときの状況も変だった。
星野くん目線、暴力的なストーカーだと分かっている元彼をわたしの病室に入れるとは思えないのだ。普通なら。
星野くんのいない隙を狙って愛沢くんが入り込んだのだとしたら、愛沢くんの存在に気が付いた瞬間にもっと感情的になるだろう。
考えるほどに怪しくなってくる。
芽生えた違和感が存在感を増し、絡みついて離れない。
(じゃあ……愛沢くんの言ってたことが本当だったの?)
星野くんがわたしの元彼でストーカー?
わたしは彼に突き落とされた?
「…………」
眉を寄せて俯くと、心の中でかぶりを振る。
(だめだ、そもそも星野くんと“暴力”が結びつかない)
紳士的で優しい彼。
甘く微笑む姿ばかりが頭に浮かぶ。
(だけど……)
『終わらせてあげるよ、いつでも』
思わず首に触れた。
実際に絞められたわけではないのに、言いようのない息苦しさに見舞われる。
優しさの影に潜む狂気が見え隠れしているのは確かだ。
殺し自体には抵抗がなさそうだった。
今はただ、爪を隠して大人しくしているだけだとでも言うのだろうか。
(わたしの信用を得た方が動きやすいから……?)
わたしを殺したいのなら、ありえない可能性ではないのかもしれない。
鬱々とした重い気分から逃れるようにため息をつくと、何気なく窓の外に目をやった。
校庭や校門までの道が見える。
何とはなしに視線を彷徨わせていると、ずきっ、と不意に頭痛がした。
「……っ!」
割れるように響く痛み。
内側から槌で殴打されているかのようだった。
たまらず目を瞑ると、ざらついた不鮮明な映像が過ぎる。
(何、これ)
目の前で振り上げられる何か。
次の瞬間、衝撃を受けて目眩を覚えたように視界が揺れる────。