嘘と恋とシンデレラ
「とりあえず、そこで休みな?」
小鳥ちゃんに促され、空いている方のベッドに歩み寄った。
しかし何だか横になる気にはなれなくて、腰を下ろすに留まる。
丸椅子を引っ張ってきた彼女は傍らに座った。
「…………」
何か思うところがありそうな様子で俯く小鳥ちゃん。
すぐに戻ろうとしないのは、単に授業をサボりたいから、というわけではなさそうだ。
かといって、わたしを心配してくれているのがすべてだというふうにも見えない。
「どうかしたの?」
言いたいことでもあるのかもしれない。
わたしは窺うように見やって首を傾げた。
「あの、さ……」
迷いのような憂いのような表情をたたえたまま、ややあって顔を上げる。
「こころって愛沢くんと付き合ってるの?」
意外な問いかけに「え」と声がこぼれた。
どう答えるべきか悩んでしまう。
「えっと……付き合ってはない、のかな?」
いや、付き合っているのだろうか?
でもそれを認めてしまうと、星野くんとの関係は何なのか、という話になってくる。
彼らが何と言おうと、どちらが本物でどちらが偽物かという答えが出るまでは、付き合っているとは言えない。
それがわたしの認識だった。
「そうなの? 本当に?」
小鳥ちゃんは驚いたように目を見張る。
愛沢くんとの様子を見ていれば無理もないだろう。
わたしは頷いてから続けた。
「小鳥ちゃん、わたしに新しい彼氏が出来たこと教えてくれたよね。元彼につきまとわれてるってことも」
「うん……」
「それなんだけどね……隼人か響也くん、どっちかが本物の彼氏でどっちかが元彼みたいなの」
そう打ち明けると、彼女は神妙な顔になった。
けれどそれについては妥当な2択だったのか、特に驚いた素振りはない。
「そういうことか。じゃあふたりともが“自分が本物だ”って言ってるわけね」
その言葉にこくりとわたしは再び頷いた。
考えるように視線を宙へ振り向ける小鳥ちゃん。
躊躇うような間があってから、やがて吹っ切れたように口を開く。
「わたしが言うのも何だけど、愛沢くんってさ……」
眉をひそめた彼女は、声を落として続ける。
「ちょっと異常じゃない?」
はっとした。
わたしが募らせていた彼に対する不審な思いは、やはり勘違いではなかったようだ。
「重いし束縛すごいし……。そういう事情なら、愛沢くんの方がストーカーっぽいと思っちゃうんだけど」