嘘と恋とシンデレラ
(……やっぱりそうなのかな)
以前のことは分からないけれど、少なくとも記憶をなくしてから直接の暴力を受けたことはない。
だけど、そんな雰囲気をにおわせる本性を垣間見たのは事実だ。
高圧的なところや自分本位なところ。
気に入らなければ、ものに当たったり脅したりして服従させようとする。
暴力的で執念深い“元彼”とやらの性質は、確かに愛沢くんっぽいとは思う。
「…………」
自分の手を見下ろす。
彼に掴まれて何度も痛い思いをした。……あれは暴力だったのかな?
(でも、重いこと自体が悪いわけじゃないよね)
それだけ愛されているということだと思うから。
「……前のわたしと隼人ってどんな感じだった?」
本人には決して尋ねられないことを彼女に問うてみる。
前のめりになっていた小鳥ちゃんは体勢を戻しつつ、思い返すように「んー」と顔を上げた。
「一緒にいるところは見かけたことあるけど、今ほどべったりって感じじゃなかったかな」
何となく驚いてしまう。
今のわたしにとっては逆に想像がつかない。
「……ねぇ、こころ」
小鳥ちゃんがそっとわたしの腕を掴んだ。
「星野くんを信じた方がいいんじゃない? こころが決めることだけど……」
心配そうな表情を浮かべる彼女の瞳が不安気に揺れる。
「でももうこれ以上、愛沢くんに苦しめられてるとこ見てられない」
窮屈さを感じながらこらえていたわたしの姿は、傍目にはそんなふうに見えていたみたいだ。
自らの言葉に触発されたのか、小鳥ちゃんは気色ばむ。
「愛沢くんってわたしたちのことまで敵みたいに睨んでさ。……あ、そうだ。あのときも」
いつだろう、と考え込むまでもなかった。
彼を含めての関わりなんて知れているし、未だに引っかかりが残っていたから覚えている。
『愛沢くんって────』
前に小鳥ちゃんはそう何かを言いかけてやめたのだ。
そのときのことを指しているのだろう。
「実はあの日、こころが来る前、愛沢くんに言われたんだよね」
「何て……?」
「“余計なこと言うな”って」