嘘と恋とシンデレラ

(……やっぱりそうなのかな)

 以前のことは分からないけれど、少なくとも記憶をなくしてから直接の暴力を受けたことはない。

 だけど、そんな雰囲気をにおわせる本性を垣間(かいま)見たのは事実だ。

 高圧的なところや自分本位なところ。
 気に入らなければ、ものに当たったり脅したりして服従させようとする。

 暴力的で執念深い“元彼”とやらの性質は、確かに愛沢くんっぽいとは思う。

「…………」

 自分の手を見下ろす。
 彼に掴まれて何度も痛い思いをした。……あれは暴力だったのかな?

(でも、重いこと自体が悪いわけじゃないよね)

 それだけ愛されているということだと思うから。

「……前のわたしと隼人ってどんな感じだった?」

 本人には決して尋ねられないことを彼女に問うてみる。

 前のめりになっていた小鳥ちゃんは体勢を戻しつつ、思い返すように「んー」と顔を上げた。

「一緒にいるところは見かけたことあるけど、今ほどべったりって感じじゃなかったかな」

 何となく驚いてしまう。
 今のわたしにとっては逆に想像がつかない。

「……ねぇ、こころ」

 小鳥ちゃんがそっとわたしの腕を掴んだ。
 
「星野くんを信じた方がいいんじゃない? こころが決めることだけど……」

 心配そうな表情を浮かべる彼女の瞳が不安気に揺れる。

「でももうこれ以上、愛沢くんに苦しめられてるとこ見てられない」

 窮屈(きゅうくつ)さを感じながらこらえていたわたしの姿は、傍目(はため)にはそんなふうに見えていたみたいだ。

 自らの言葉に触発(しょくはつ)されたのか、小鳥ちゃんは気色(けしき)ばむ。

「愛沢くんってわたしたちのことまで敵みたいに睨んでさ。……あ、そうだ。あのときも」

 いつだろう、と考え込むまでもなかった。

 彼を含めての関わりなんて知れているし、未だに引っかかりが残っていたから覚えている。

『愛沢くんって────』

 前に小鳥ちゃんはそう何かを言いかけてやめたのだ。
 そのときのことを指しているのだろう。

「実はあの日、こころが来る前、愛沢くんに言われたんだよね」

「何て……?」

「“余計なこと言うな”って」
< 66 / 152 >

この作品をシェア

pagetop