嘘と恋とシンデレラ
思わず眉を寄せた。
彼がそんな口止めみたいなことをしていたなんて。
「余計な、こと……」
「そう。まあ、たぶんこういうことだろうね」
困ったように苦笑した小鳥ちゃんが肩をすくめる。
星野くんに対する擁護とか、愛沢くんへの非難とか、わたしが忘れた以前のこととか。
きっとそれらが愛沢くんの言う“余計なこと”にあてはまるのだろう。
「もしかして、その傷も……」
笑みを消した彼女は、はたと思いついたように言う。
「愛沢くんにやられたんじゃ────」
そのとき、シャッと隣のベッドのカーテンが開いて言葉が遮られる。
反射的にそちらを向き、思わず息を呑む。
「……俺が何したって?」
あぐらをかき、その上に頬杖をついていた彼は、気だるげに腕を下ろした。
「は、隼人……」
心臓がばくばくと早鐘を打った。
驚愕に明け暮れる小鳥ちゃんは声すら出せないようだ。
「な、何でここに?」
「別にただのサボりだけど」
淡々と答える愛沢くん。
確かに彼はもともとサボりがちだったし、今も偶然居合わせたに過ぎないのだろう。
だけど、会話を聞かれてしまったのは間違いない。
無愛想で刺々しい態度がその証拠だ。
「……お前さ、分かってんの?」
射るほど鋭い視線が小鳥ちゃんに向けられる。
「言ってくれたな。余計なこと」
怒りを滾らせたような低い声に、ぞくりと背筋が冷えた。
本当に愛沢くんが暴力をも厭わない凶暴な人物なら、彼女にまで累が及ぶかもしれない。
(まずい)
一心にわたしを案じてくれている彼女を巻き込んで、危ない目には遭わせられない。
「小鳥ちゃん……!」
「あ、わ、わたし、先生呼んでくる!」
わたしの意図を察してくれた彼女が勢いよく立ち上がる。
がたん、と後ろに倒れた丸椅子を起こす余裕もなく、慌ただしく保健室から飛び出していった。
「こころ」