嘘と恋とシンデレラ
「…………」
星野くんはしばらくわたしを見つめたまま口を噤んでいた。
しかし結局反論することなく、悲しげに俯く。
「……そっか」
疑念をぜんぶまとめて跳ね除けられるような説得力のある根拠を探していたけれど、見つからなかったみたいだ。
もしくはいっそのことすべてを打ち明けようとしたものの、天秤にかけた結果、諦める判断をした。
わたしの手を離し、大切そうにそっと布団の上に置いた。
立ち上がって背を向ける。
「飲みもの持ってくるね。好きにしてて」
ドアの取っ手に手をかけてから、思い出したように続けた。
「安心して。もう何も入れないから」
彼が部屋を出ていくと、苦しさを吐き出すように深く息をつく。
簡単に信じたりしない。疑って見極めなきゃ。
……そう決めたはずだ。
それには突き放すことも必要で、けれど甘いわたしはそのたび懲りずに心を痛める羽目になった。
(ちょっと……調べてみよう)
気持ちを切り替え、ベッドから下りる。
少しでも情報を得るため、部屋を探索してみることにする。
8畳くらいの洋室。
大きな家具はベッド、デスクとチェア、本棚くらい。
デスクの上も棚もきちんと整頓されている。
ものが少なくてすっきりしているけれど、観葉植物やクッションなんかが置いてあるところが星野くんらしい。
一見、何の変哲もない部屋だ。
そもそもこの中でわたしを自由にさせている時点で、後ろめたい何かを隠している可能性は低いかもしれない。
ちら、とクローゼットを見やった。
さすがに勝手に開けるのは気が引ける。
(だけど、今はそうも言ってられない)
きっと、信じるも疑うも中途半端だからしてやられるのだ。
道徳も常識もわたしの命を守ってはくれない。
半ば無理やり自分を納得させると、クローゼットの取っ手を掴んで引っ張った。
どきどきしながら開けてみる。
ハンガーパイプにかけられた服から星野くんの優しい香りがした。
この中も部屋と同じように整然としている。
ひと目見たところ、やはり特別おかしな点はなく、怪しさは感じられなかった。
「……ん?」
申し訳なく思いながらクローゼットを閉めようとして、はたと動きを止める。
隅の方に光る何かを見つけた。
「これ……っ」