嘘と恋とシンデレラ
「えっと」
そう尋ねた愛沢くんの意図は読めなかったけれど、どうしてもいい予感はしない。
だから昨日の星野くんによる軟禁紛いの行動は口に出来なかった。
「響也くんが金属バットを隠し持ってるの見ちゃって……」
「マジで?」
驚いたように目を見張り、それから息を吐くように冷ややかに笑った。
「ほらな、最初から言ってんだろ」
余裕に満ちた態度で嘲笑い、わたしから手を離す。
「これで分かったか? あいつの本性」
「…………」
何も言えなかった。
現物を見た以上、軽々しく否定することも出来ない。
(そう、なのかも)
愛沢くんの言う通り、星野くんは欺いていたのかもしれない。
過去にわたしを傷つけたり追い詰めたりしていて、今もまたその機会を虎視眈々と狙っているのかもしれない。
わたしはただ、嘘つきな星野くんに振り回されているだけなのだろうか。
「……はは!」
愛沢くんが愉快そうに笑う。
その声で我に返った。
「あいつ意外と抜けてんだな。そんな重要な証拠とっとくなんて……ばかで助かった」
◇
ホームルームが始まったものの、先生の声は右から左へと流れていく。
揺れ動く思考の渦に突き落とされる。
だけど飲み込まれないよう、ぎゅう、と両腕を握り締めた。
(頭を殴った犯人……たぶん、わたしを殺そうとしたんだと思う)
殴ったけどそれだけじゃ足りなくて、階段から突き落とした。
「…………」
目を閉じて想像してみる。
ひとりで歩道橋を歩いていたとき、背後から金属バットを手にした星野くんが現れて。
『こころ』
振り返るなり、バットで殴られた────?
もしかしたら、殴られた反動で落ちたのかもしれない。
なんて、突き落とされた記憶が戻っていなければ思っていたかもしれないけれど。
(最初に“突き落とされた”って言ったのは、愛沢くんだったっけ……)
ふと先ほどのことを思い出す。
『これで分かったか? あいつの本性』
『あいつ意外と抜けてんだな。そんな重要な証拠とっとくなんて……ばかで助かった』
そんな愛沢くんの冷酷な罵りに、怯んだと同時に引っかかりを覚えていた。
(確かにおかしい。何か────)