嘘と恋とシンデレラ
お陰でいくらか気が紛れ、失っていた冷静さを取り戻すことが出来た。
「……そうだね。でもまた今度にしよ」
「しょうがないかー。そのときは朝からカラオケ付き合ってもらおっと」
「朝から?」
笑い合いながら歩いていく。
憂鬱は晴れたけれど、白んだ空は雲に覆われたままで光も射さない。
灰色が濃くなり、だんだんと雨の気配を強めていった。
◇
小鳥ちゃんと別れ、ひとりで家までの道を歩く。
鬱々とした空模様に後押しされるように思考がうごめき出した。
ふたりともに命を狙われている可能性がある以上、信じるとか信じないとか、そんな次元の話じゃ最早ないのかもしれない。
どっちがどっちだって一緒のことだ。
無事に本物を見極めて偽物を遠ざけたって、今度は本物の恋人からの脅威に晒されるだけ。
(ううん……。そもそもこの推測は合ってるのかな?)
もしかして、どちらかは本当にわたしの味方なのだろうか。
門の取っ手に手をかける。
(隼人、珍しく朝以降は来なかったな)
わたしが小鳥ちゃんと連れ立ってなるべく教室にいないようにしていたとはいえ、かなり大人しかったような気がする。
もしかして、星野くんが牽制してくれていた?
(……なんて、そんなわけないか)
そうだとしても愛沢くんが大人しく従うとは思えない。
彼にとってはそうする義理なんてないのだから。
そんなことを考えながら玄関のドアに鍵を挿し込み回した。
取っ手を引くけれどなぜか開かない。
「あれ?」
むしろ鍵がかかってしまったみたいだ。
もう一度、挿し込んだ鍵を回すとドアが開く。
(何でだろう)
朝、かけ忘れたまま出てしまったのだろうか。
首を傾げながら家の中に入ると、タイル張りの土間部分に見慣れない靴があった。
「え……?」
明らかに自分のものではないような、大きめのスニーカー。
(まさか……)
嫌な予感が急速に浮かんでは弾け、慌てて靴を脱いで上がった。
鞄を放ってリビングへ駆け込む。
「おかえり」