嘘と恋とシンデレラ
考えるより先に言葉がこぼれていく。
少なくとも今は感情に突き動かされていた。
これ以上、怯えるだけの日々なんて嫌だ。
わたしは真実を知りたいだけなのだ。
そんな思いが強まると、度胸をもって踏み出せた。
逡巡するように黙した彼に畳みかける。
「疑われたくないなら信じさせてよ。本当のこと言って! じゃないと、わたし────」
その瞬間何が起きたのか、すぐには分からなかった。
反射的に言葉を切る。いや、切らざるを得なかった。
愛沢くんにキスで塞がれたから。
息が止まる。
あまりに驚いて、目を見張ったまま動けなくなってしまう。
ややあって彼がゆっくりと離れた。
本当に、ややあって、だったのかは定かじゃない。
唇が触れている間は一瞬のようにも永遠のようにも感じられたからだ。
だけど、目を逸らせない。
わたしの中のぜんぶの意識が愛沢くんの存在に向いていた。
痛いくらいの鼓動を自覚して、わたしは熱を逃がすように小さく息をつく。
やがて、沈黙が破られた。
「……分かったよ。話すから、本当のこと」
意外に思った。
まさかそうしてくれるとは思わなくて。
「その代わり逃げんなよ」
もちろん、真実を知るまで諦めるつもりなんてない。ましてや自ら遠ざけるようなことはしない。
念を押すような言葉を受け、わたしはこくりと頷く。
その瞬間、手首を掴まれたかと思うと視界が回った。
押し倒されたのだと分かるまでに数秒要した。
「え……っ」
「なに驚いてんの? お前が言ったんだろ、本当のこと話せって」
そう言った愛沢くんの手が、まっすぐにわたしの首を捉えた。
理解が追いつかない。
だけど危機感を煽るその奇妙な感触だけははっきりと認識出来て、恐怖が込み上げてくる。
「これが本当の俺だよ。ていうか、俺たち」
声が出なかった。
実際に絞められているわけではないのに、呼吸が浅くなっていく。
「どんなふうにすれ違っても、こうやってお前を苦しめたり痛めつけたりするとさ、お前は“ごめんね”って泣いて……ちゃーんと俺の言うこと聞いてくれるようになるの」
ふっと彼が笑った。
狂気か、恍惚か、いずれにしてもまともじゃない。
「あー……こうすれば俺の気持ちが伝わるんだ、って気付いたんだよ。だから今もこうしてるわけ。お前に分かって欲しいから」
意思の強そうな眼差しがわたしを捉えて離さない。
それは、過去に暴力を振るっていたことを認めるも同然の言葉だった。
「じゃあ……隼人が────」
「そう、お前の元彼。まあ……俺はそんなの認めてないけど」
ぐ、と彼が不意に手に力を込める。
首が絞まり、思わず顔を歪めた。
ただでさえままならない呼吸がさらに弱く萎んでいく。
「……っ」
あまりの苦しさに涙が滲んだ。
指が、爪が、食い込んで痛い。
それでも、今のところ殺す意思はないのだろう。
力加減からそれが分かる。
ただ、わたしに苦痛を与えているだけ。
愛沢くんの声が、ぼやけた意識を割った。
「このまま話そっか。そしたら俺のこと信じてくれるんだろ?」