エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
「え?」

 芽衣が座っていた窓際の席に咲仁くん。
 正美が座っていた真ん中寄りの席に幸夜くん。
 なんで?
 私が左右の二人を交互に見ていると、幸夜くんが机に肘をついてニコニコ私を見てくる。
 咲仁くんは腕を組んで目をつぶっていて、知らんぷり。

「席、変わってもらっちゃった」

 幸夜くんの言葉に本来の双子の席だったはずの後ろを見ると、芽衣と正美が座って幸夜くんに手を振っていた。

「事情を話したら、快く変わってくれたんだ。珠子ちゃんは優しい友達を持ってるね」

「事情って、何言ったの!?」

 席替えしてもらうような事情ってなに?
 婚約者の話になったときに逃げださないで、変なこと言わないか見張っておけばよかった!
 後悔してももう遅い。
 芽衣と正美のところに行こうと思っても、先生が教室に入ってきてしまった。
 仕方なく教科書を机に出すと、幸夜くんが自分の机を私の机に寄せてきた。

「なに?」

「教科書まだないんだ、見ーせーてっ!」

 甘えるような声を出す幸夜くんに、まさか咲仁くんもと思って振り返ると、咲仁くんはちゃんと自分の教科書を用意していた。

「一冊しか、準備間に合わなかったの」

 なんでもないような笑顔で幸夜くんは言うけど、なんだか騙されている気がする。
 それでも教科書がないって言うんだから無視も出来ない。
 深々と長ーいため息が出ちゃうけど、私は私と幸夜くんの机の境目に教科書を広げた。
 幸夜くんはニコニコご機嫌で、咲仁くんは仏頂面で……
 高良珠子。
 今日から十六歳。
 なんだか前途多難な予感がした。
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