エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
     *

「「お誕生日、おめでとう!」」

 花と榴先輩が声を合わせてお祝いしてくれる。
 私はその言葉に合わせて、ケーキに刺さったろうそくを吹き消した。
 Happy Birthday to Tamakoとチョコレートで書かれたお皿に、たった今吹き消したロウソクが一本刺さっているデコレーションケーキ。
 一人で食べきれるサイズだからそこまでの派手さはないけど、フルーツたっぷりでおいしそう。
 他のお客さんの邪魔にならない控えめな拍手でもお祝いされて、自然と頬が緩む。

「ありがとう」

 私のケーキの他にも、花の前にはティラミス、榴先輩の前にはチョコレートパフェが置かれている。

「それじゃ、食べよっか」

 主役である私がフォークを手に取ると、花と榴先輩も食べ始める。

「花の家って厳しいから、なかなか二人っきりでデート出来なくて大変ですね」

 意外と甘い物好きの榴先輩に話しかけると、神妙な顔を返されてしまう。

「でも、別に花と会う口実で来たわけじゃないからな。純粋に、高良を祝いしたくて……」

「わ、わかってますよ! 大丈夫です」

 榴先輩がそんな人じゃないのはわかってる。
 でも、二人がなかなかゆっくりデート出来ないのは本当だから、こういう機会に花と楽しんでほしい気持ちもある。

「花、ついてる」

 榴先輩が花の口元にティラミスがついているのに気が付いて、親指でぬぐうとそのままパクっと食べた。

「おいしい」

「一口食べる?」

 榴先輩の言葉に花がティラミスを一口分、榴先輩の口に運ぶ。

「俺のもやる」

 花のティラミスを食べた榴先輩は、お返しにパフェのチョコレートアイスをスプーンですくうと花の口に……
 うん、目の前でいちゃつかれているね!
 嫌な人も多いだろうけど、私は全然嫌じゃない。むしろ、もっとやって欲しい。
 私は花が大好きだし、花を大切にしてくれている榴先輩も大好き。
 二人が幸せそうにしていると私も嬉しいし、なんて言うのかな。
 言い方合ってるかわからないけど、箱推しって感じ。

「私も彼氏欲しー」

 でもついつい、本音も漏れてしまった。

「幸夜くんは!?」

「婚約者なんだろ?」

 独り言のようなものだったのに、お互いを見つめていたはずの花と榴先輩の視線が私に集まる。

「なんで榴先輩まで知ってるんですか!?」

 同じクラスの花はともかく、どうして学年の違う榴先輩まで幸夜くんの婚約者発言を知ってるんだろう。
 花が話したのかなって思ったけど、違った。

「目立つ双子だからな。もう三年の教室まで噂が流れてきた」

 それって、ほぼほぼ全校生徒に知れ渡っているってことでは?
 軽いめまいがした。

「婚約者って言っても、パパと幸夜くんがが勝手に言ってるだけだし、今朝初めて会ったばっかりなんだよ」

「でも、幸夜くんカッコいいじゃん。優しそうだしさ、結構ラッキーじゃない?」

 花はそう言うけど、とてもラッキーとは……ラッキー、かも。
 言われてみれば、確かに。
 幸夜くんは本当にカッコイイし、しかも私なんかのことを好いてくれている。
 私も幸夜くんを好きになれば両想い確定だし、親も公認で交際は順調にすすむこと間違いなし。
 他に類を見ない優良物件である。でも……

「でも、私にとっては榴が一番カッコいいし一番好きだからね」

「知ってる。俺にとっても、花が一番だよ」

 また二人がいちゃつきだしていた。
 実は私、初恋もまだだったりする。
 愛だの恋だのよくわからない。
 幸夜くんを好きになれたら、きっと幸せになれるんだろうなとは思うんだけど……
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