エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
「そうだ! 珠子ちゃん!」
幸夜くんがテーブルの上に寝転がるように身を乗り出して、咲仁くんを見ていた私の視界に飛び込んでくる。
「よかったら、これにサインちょーだい」
幸夜くんが手に持っていたのは、A3サイズの書類だった。
幸夜くんの名前やパパの名前がサインされているのが見えて、左上には――『婚姻届』と書かれていた。
「………………」
私は知っている。最近、法律が変わって女の人も十八歳にならないと結婚できなくなったことを。男の人はもともと、十八歳にならないと結婚できないということを。そして、私は今日で十六歳になった。留年とかしてない限りは、同じ学年の幸夜くんも十六歳。つまり、パパの同意があってもこの婚姻届けは無効。
でも、そういう問題じゃないことも知っている。
「いいわけ、ないでしょー!」
私は幸夜くんからそれを奪い取るとビリビリに破った。
大切な書類の割には薄い紙で、簡単に破れたそれを立ち上がった勢いのまま両手を広げて空中にぶちまける。
紙吹雪の向こうで半笑いで天井を仰ぐ幸夜くんと、背もたれにもたれて目をつぶっている咲仁くんが見えた。
「ホント、信じらんない!」
腹の底から声を出して、私はリビングの扉を力いっぱい閉めて自分の部屋へ向かって行った。
パパに文句の電話を掛けるはずだったけど、パパは電話に出なかった。仕方なく留守番電話に恨みつらみを残しておいたけど、たぶん折り返しはないだろうな。電話に出ないってことは忙しいってことだし、言いたいことを言いたかっただけで、パパの返事も期待していない。どうせ私が何を言っても変わらないだろうなって、そんな予感がした。
とりあえず、お風呂場にカギがついていることに感謝しながらシャワーを浴びた。
脱衣所にもカギをかけたまま髪を乾かしてパジャマに着替える。なんとなくお風呂上りに会いたくなくて、脱衣所を出るときに廊下に誰もいないことを確認して、ささっと自分の部屋へ――
「なんでいるのよ!」
警戒したことになんの意味もなかった。
部屋に入った私が見たのは、私のベッドでくつろぐ咲仁くんだった。
いつものマスク姿にスマートフォンを持って耳にイヤフォンを差して、仰向けに寝転がっている。
「音楽聞いてるから、静かにしろ」
私の方を見向きもしないで、スマホの画面を見ている咲仁くん。ここ、私の部屋だよね!? 二人は客間に荷物を運んでもらったのに!
幸夜くんがテーブルの上に寝転がるように身を乗り出して、咲仁くんを見ていた私の視界に飛び込んでくる。
「よかったら、これにサインちょーだい」
幸夜くんが手に持っていたのは、A3サイズの書類だった。
幸夜くんの名前やパパの名前がサインされているのが見えて、左上には――『婚姻届』と書かれていた。
「………………」
私は知っている。最近、法律が変わって女の人も十八歳にならないと結婚できなくなったことを。男の人はもともと、十八歳にならないと結婚できないということを。そして、私は今日で十六歳になった。留年とかしてない限りは、同じ学年の幸夜くんも十六歳。つまり、パパの同意があってもこの婚姻届けは無効。
でも、そういう問題じゃないことも知っている。
「いいわけ、ないでしょー!」
私は幸夜くんからそれを奪い取るとビリビリに破った。
大切な書類の割には薄い紙で、簡単に破れたそれを立ち上がった勢いのまま両手を広げて空中にぶちまける。
紙吹雪の向こうで半笑いで天井を仰ぐ幸夜くんと、背もたれにもたれて目をつぶっている咲仁くんが見えた。
「ホント、信じらんない!」
腹の底から声を出して、私はリビングの扉を力いっぱい閉めて自分の部屋へ向かって行った。
パパに文句の電話を掛けるはずだったけど、パパは電話に出なかった。仕方なく留守番電話に恨みつらみを残しておいたけど、たぶん折り返しはないだろうな。電話に出ないってことは忙しいってことだし、言いたいことを言いたかっただけで、パパの返事も期待していない。どうせ私が何を言っても変わらないだろうなって、そんな予感がした。
とりあえず、お風呂場にカギがついていることに感謝しながらシャワーを浴びた。
脱衣所にもカギをかけたまま髪を乾かしてパジャマに着替える。なんとなくお風呂上りに会いたくなくて、脱衣所を出るときに廊下に誰もいないことを確認して、ささっと自分の部屋へ――
「なんでいるのよ!」
警戒したことになんの意味もなかった。
部屋に入った私が見たのは、私のベッドでくつろぐ咲仁くんだった。
いつものマスク姿にスマートフォンを持って耳にイヤフォンを差して、仰向けに寝転がっている。
「音楽聞いてるから、静かにしろ」
私の方を見向きもしないで、スマホの画面を見ている咲仁くん。ここ、私の部屋だよね!? 二人は客間に荷物を運んでもらったのに!