エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
「だって……」

 こんなイケメンに好意を寄せられているなんて信じられなくて怖いし、みんなの前で婚約者宣言したり外堀埋めてグイグイ来るのもか怖いし、なんにも考えてません天然ですって顔しながらそういうことするの腹黒そうでなんか怖いし、いっつもニコニコ笑顔だけどそれもずっと過ぎてなんだか――

「無理してるみたいで、見てて辛い」

 これを言ったら傷つけるだろうなって考えが頭の中でぐるぐるして、幸夜くんの方を見られないでいたらほとんど無意識にその言葉が出ていた。
 漠然と感じていたものが形になって、しっくりきた。
 胡散臭い笑顔って言葉も一瞬出てきそうになったけど、そっか、そうじゃないんだ。無理した笑顔だったんだ。
 そう思うと、いろんなことが腑に落ちた気がする。 

「そんなに、咲仁くんと張り合わなくていいと思うよ。みんながって言うけど……今まではそうだったかもしれないけど、これからはわからないでしょ。せっかく日本に来たんだし、こっちでもそうだって悲観しないでよ。幸夜くんは幸夜くんで素敵だと思うよ」

 ポンッと、幸夜くんの方を叩く。

「まあ、無理して笑ってるのもみんなを気づかってるのかなって思うし、幸夜くんの良いところなんだろうけどさ」

 なんとなく、すっきりした気持ちで足取りが軽くなる。

「って、昨日知り合ったばかりの私がなに知ったかしてんだかって、感じだけど」

 苦笑いしておこがましさを誤魔化すと、幸夜くんが立ち止まっていることに気がつく。

「ごめんね」

 怒っちゃったかなって振り返ると、幸夜くんの顔は傘に隠れて見えなかった。
 駆け戻って幸夜くんの顔を見ようとすると、手をつかまれた。

「本当に……君は変わらないね」

 口元は微笑んでいるのに、私には幸夜くんが今にも泣きそうに見えた。
 私が変わらないって、私は幸夜くんと昔に会ったことがあるの? 幸夜くんも、写真でしか私を知らないような口ぶりだったのに……

「また、珠子ちゃんに好きになってもらいたいなぁ」

 背の高い幸夜くんから、独り言みたいに言葉が降ってくる。
 私の手から頬に、幸夜くんの手が移る。
 ひんやりと冷たい幸夜くんの手が、私の頬を撫でる。

「また?」

 言葉がたくさん、私に引っかかる。

「あれ、なんか言い回しおかしかった?」

 また胡散臭いもとい無理した作り物の笑顔を張り付ける幸夜くん。

「ごめんね~、外国育ちだから日本語の言い回しおかしくっても気にしないでね」

 幸夜くんが私の額に額を合わせてくる。

「とにかく、君が好きってことだよ。珠子ちゃん」

 ――――キスされるかと思った。
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