エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
「珠子ちゃん!」
「まだ生きてるか?」
水音と共に私の背中を押さえる圧が消えたかと思うと、双子の声がした。
体を起こした私の視界に走ってくる二人の姿が見えて――また霞んだ。
「幸夜くんっ……! 咲仁くんっ……!」
さっきとは違う安堵の涙で、視界が歪んで大粒の涙がこぼれる。
「一人でよく頑張ったな」
「もう大丈夫だから、安心してねっ」
二人が私とあの奇妙な生き物の間に立ち塞がる。
二人の背中越しに見たあの生き物は、やっぱりヤギの頭とヘビのしっぽを生やした奇妙なライオンにしか見えなかった。
そのライオンが今、腕から血を流して引きずっていた。
タイミング的に、二人が何かをしたのだとしか思えなかった。
二人があの生き物を攻撃して私を助けてくれたんだと――でも、どうやって?
「遅くなって、ごめんね」
私が目を丸くしてにらみ合う二人と一匹を見ていると、そっと花が肩を抱いた。
振り返るといつもの優しい花がいて――オオカミがいた。
「ひっ……」
私は花にしがみついた。
真っ黒な毛並みのオオカミは、ライオンよりも二回りぐらい大きく見えた。
「大丈夫よ」
あの生き物の仲間かと怯える私の体を、花がそっと優しくさすってくれる。
「幸夜! 咲仁! 加勢するか?」
「いい! 珠子ちゃんを安全なところに」
オオカミが口を開いて双子に声をかけた。私以外の誰もオオカミが喋っていることに疑問はないようで、幸夜くんも普通に返事をしていた。
私は驚いていた。
オオカミが喋ったこともだけど、その声が――
「榴先輩……?」
オオカミは花の恋人、榴先輩の声でしゃべっていた。
「幸夜! 右の鉤爪、八時の死角からヘビだ」
呆然とする私をよそに、更なる奇妙な光景が繰り広げられようとしていた。
咲仁くんが幸夜くんに指示を出した一瞬後に、咲仁くんの言葉通り奇妙な生き物が負傷していない右の鉤爪を幸夜くんに繰り出し、それと同時にヘビの尾が幸夜くんの背後に伸びて牙を向く。
咲仁くんの指示でそれを難なくかわした幸夜くんが、不敵に笑う。
「今日が雨降りで、不運だね」
指揮者のように幸夜くんが指を振る。
その動きにつられるように、降り注ぐ雨が動きを止めて、無重力のように空中に水玉を作る。幸夜くんの指揮に合わせて水は形を変え、矢のようにライオンの体にヤギの頭にヘビの尾に降り注ぎ攻撃する。
咆哮を上げ奇妙なライオンがのたうつ。
「180秒後に黒鷲が上空から奇襲だ。警戒しろ」
咲仁くんが見上げた曇天の下、巨大な鳥の影が旋回しているのが見えた。
奇妙なライオン、榴先輩の声でしゃべる大オオカミ。水を操る幸夜くん――
目の前で巻き起こるファンタジーな光景に頭がついていかない。
「背中に乗れ、離れるぞ」
「珠ちゃん」
榴先輩の声に花が大オオカミに騎乗して、私に手を差し出してくる。
ぼうっとしたまま花にうながされてその手を取ると、二人で大オオカミの背中に乗った。
温かくて柔らかい毛並みが、これは夢じゃないと訴えかけてくる。
馬にさえ乗ったことがないのに、オオカミの背に乗る日が来るなんて思わなかった。
「行くぞ」
体をしならせ、オオカミが走り出す。双子を残して、花に体を支えられた私はその場を離脱した。
「まだ生きてるか?」
水音と共に私の背中を押さえる圧が消えたかと思うと、双子の声がした。
体を起こした私の視界に走ってくる二人の姿が見えて――また霞んだ。
「幸夜くんっ……! 咲仁くんっ……!」
さっきとは違う安堵の涙で、視界が歪んで大粒の涙がこぼれる。
「一人でよく頑張ったな」
「もう大丈夫だから、安心してねっ」
二人が私とあの奇妙な生き物の間に立ち塞がる。
二人の背中越しに見たあの生き物は、やっぱりヤギの頭とヘビのしっぽを生やした奇妙なライオンにしか見えなかった。
そのライオンが今、腕から血を流して引きずっていた。
タイミング的に、二人が何かをしたのだとしか思えなかった。
二人があの生き物を攻撃して私を助けてくれたんだと――でも、どうやって?
「遅くなって、ごめんね」
私が目を丸くしてにらみ合う二人と一匹を見ていると、そっと花が肩を抱いた。
振り返るといつもの優しい花がいて――オオカミがいた。
「ひっ……」
私は花にしがみついた。
真っ黒な毛並みのオオカミは、ライオンよりも二回りぐらい大きく見えた。
「大丈夫よ」
あの生き物の仲間かと怯える私の体を、花がそっと優しくさすってくれる。
「幸夜! 咲仁! 加勢するか?」
「いい! 珠子ちゃんを安全なところに」
オオカミが口を開いて双子に声をかけた。私以外の誰もオオカミが喋っていることに疑問はないようで、幸夜くんも普通に返事をしていた。
私は驚いていた。
オオカミが喋ったこともだけど、その声が――
「榴先輩……?」
オオカミは花の恋人、榴先輩の声でしゃべっていた。
「幸夜! 右の鉤爪、八時の死角からヘビだ」
呆然とする私をよそに、更なる奇妙な光景が繰り広げられようとしていた。
咲仁くんが幸夜くんに指示を出した一瞬後に、咲仁くんの言葉通り奇妙な生き物が負傷していない右の鉤爪を幸夜くんに繰り出し、それと同時にヘビの尾が幸夜くんの背後に伸びて牙を向く。
咲仁くんの指示でそれを難なくかわした幸夜くんが、不敵に笑う。
「今日が雨降りで、不運だね」
指揮者のように幸夜くんが指を振る。
その動きにつられるように、降り注ぐ雨が動きを止めて、無重力のように空中に水玉を作る。幸夜くんの指揮に合わせて水は形を変え、矢のようにライオンの体にヤギの頭にヘビの尾に降り注ぎ攻撃する。
咆哮を上げ奇妙なライオンがのたうつ。
「180秒後に黒鷲が上空から奇襲だ。警戒しろ」
咲仁くんが見上げた曇天の下、巨大な鳥の影が旋回しているのが見えた。
奇妙なライオン、榴先輩の声でしゃべる大オオカミ。水を操る幸夜くん――
目の前で巻き起こるファンタジーな光景に頭がついていかない。
「背中に乗れ、離れるぞ」
「珠ちゃん」
榴先輩の声に花が大オオカミに騎乗して、私に手を差し出してくる。
ぼうっとしたまま花にうながされてその手を取ると、二人で大オオカミの背中に乗った。
温かくて柔らかい毛並みが、これは夢じゃないと訴えかけてくる。
馬にさえ乗ったことがないのに、オオカミの背に乗る日が来るなんて思わなかった。
「行くぞ」
体をしならせ、オオカミが走り出す。双子を残して、花に体を支えられた私はその場を離脱した。