エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
 オオカミは河川敷を走り抜けると電信柱を伝って街並みの屋根に上がると、人目につかないようにかそこを駆けて行った。そして、私の住むマンションの外壁を伝って玄関の前に滑り込む。

「結局、ここが一番安全だな」

 オオカミがそう言って身を屈めると、花が先に降りて私に手を差し出してくる。
 花にエスコートされてマンションに足を下ろすと、おぼつかない。

「カギ、借りるね」

 花の小さな肩を支えに立っていると、いつの間にか私のカバンを預かっていたらしくて、花がカギを取り出して解錠する。

「とりあえず、休みましょう」

 花が扉を開けて慣れ親しんだ我が家に入ると、続いて大オオカミと花が滑り込んでくる。
 とても我が家の玄関に入れないと思った大オオカミは、いつの間にか大型犬ぐらいの大きさに縮んでいた。オオカミが二足で立ち上がるとともに毛皮を脱ぐように姿が変わり、見慣れた榴先輩がそこに立っていた。

「驚かして悪かったな」

 目を丸くする私に榴先輩が気まずそうに言ってくるけど、私はなにも返事が出来なかった。

「怪我を治すわ。座って」

 花は腰を抜かした私を玄関に座らせると、擦りむいた膝に手を当てる。

「痛かったね。怖かったね。もう、大丈夫だから」

 小さな子をあやすように花が優しく言うと、ポロポロと涙がこぼれて止まらなかった。
 傷に触れる花の手が温かい。傷に触られているのに痛みを感じるどころか、痛みが引いていく。目の錯覚か、花の手が淡く光っているように見えた。

「もう、痛くない?」

「う、うん……」

 私が頷くと花は微笑んで、同じように擦りむいた両手を握る。また花の手が光を帯びたような気がして、痛みが引いていった。

「遅くなってすまなかった。花と同じコロンだから、雨じゃなきゃすぐに追えたんだが……」

 申し訳なさそうな榴先輩に、私は首を振る。
 なにが起きたのかわからない。でも、みんなが私を助けに来てくれたんだってことだけはわかってた。

「あれは……いったい、なんなんですか?」

 でも、本当にわからないことだらけ。

「キマイラだ――けど、聞きたいのはそういうことじゃないな」

「幸夜くんと咲仁くんが戻ったら、ちゃんと話すから。今は、体を拭いて温めましょう」

 そう言われて、自分がずぶ濡れになっていることを思い出した。

「うん……」

 みんな、いつもと違う。花もなんだか大人っぽくて、同級生じゃないみたい。
 疎外感を覚えながら、それでも私は頷くしか出来なかった。
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