エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
「エルピスの花嫁……?」
「そう、希望の花嫁」
聞きなれない横文字を復唱すると、幸夜くんが言い直してくれる。
幸夜くんはエピメテウスとかいう神様の化身で、その妻だったパンドラが私の前世で、希望の花嫁だとか言われても……
「……意味わかんない」
幸夜くんから距離を取ろうとしても、ひざまづいたまま幸夜くんは私の手を強く握っていた。
「まあ、こうなるよな」
咲仁くんが嗤い交じりに言う。
「やはり、幼いうちから言い含めておいた方がよかったのでは?」
「それはない!」
榴先輩の言葉に、幸夜くんが剣幕に振り返って榴先輩を見る。
「こんなことにならなきゃ、珠子ちゃんは何もしらないまま僕と幸せになれたんだから」
私の話のはずなのに、私にはなにもわからない。
「それが一番いい未来だったが、一番実現は低いと言っただろ」
咳混じりに話す咲仁くんに、幸夜くんの顔が曇る。
「みんな、なに言ってるの? 私がパンドラの生まれ変わりだとか、希望の花嫁だとか」
人違いだとしか思えなかった。
確かにパパは陶芸家で高校生で一人暮らししていたり、ちょっと変わった家庭環境かもしれないけど、でもそれだけ。
「みんなみたいに不思議な力もないし、私はただの人間だよ」
水を操ったり、先を読んだり、怪我を治したり、獣に変身したり……そんなファンタジーな設定、私は持ってない。
「言っただろう。パンドラは人類最初の女だ。神の贈り物を持っていても、なんの力もないただの人間だ」
でも、それは私がパンドラじゃない証明にはなってくれないみたいだった。
跳ねのける咲仁くんの言葉に、幸夜くんに握られた手が震える。
「俺が冥府から魂を運んで宿した。間違えるはずがない」
「ずっと傍で見守ってきたんだもの。貴女がパンドラよ」
榴先輩にも畳みかけられて、その横に立つ花にまでそう告げられる。
よく見知ったはずの二人なのに、なんだかいつもと違う人みたいだった。
「貴女って、そんな呼び方しないでよ!」
気づいたら、悲鳴みたいな声を上げていた。
幸夜くんの手を振りほどいて、涙で視界が歪んでいく。
花は小学校からの仲だった。
塾で出会って、一緒に勉強したりして、大切な人だって榴先輩も紹介してくれて、誕生日だって一番に祝ってくれたのに……ずっと見守ってたって、なんなの? ずっと、友達だと思ってたのに……
「私はパンドラなんかじゃない!」
叫んだ瞬間、頬を涙が伝った。
「みんな、勝手なことばっか言わないで」
「珠ちゃん……」
花がいつもみたいに私を呼ぶ。でも、それが許せなかった。さっきは貴女なんて他人行儀な呼び方したくせに。
「馴れ馴れしく呼ばないで!」
私の叫びに花が目を見開いて、その目に涙の膜が張っていくのがわかった。でも、その膜が決壊する前に花は榴先輩の方を向いて顔を隠してしまった。そんな花の肩を、榴先輩が優しく抱き寄せる。
いたわる様な榴先輩の眼差しが、花じゃなくて私の方に向けられる。
余計に、胸のなかがぐちゃぐちゃになる。
「珠子ちゃん、落ち着いて……」
幸夜くんが差し出す手を振り払う。
「花もみんなも、大っ嫌い!」
咲仁くんもなにかを言いかけるのが視界の端に見えて、私はそれを遮るように言い捨てる。
踵を返してリビングを飛び出すと、背後で大きな音を立てて扉が閉まった。
「そう、希望の花嫁」
聞きなれない横文字を復唱すると、幸夜くんが言い直してくれる。
幸夜くんはエピメテウスとかいう神様の化身で、その妻だったパンドラが私の前世で、希望の花嫁だとか言われても……
「……意味わかんない」
幸夜くんから距離を取ろうとしても、ひざまづいたまま幸夜くんは私の手を強く握っていた。
「まあ、こうなるよな」
咲仁くんが嗤い交じりに言う。
「やはり、幼いうちから言い含めておいた方がよかったのでは?」
「それはない!」
榴先輩の言葉に、幸夜くんが剣幕に振り返って榴先輩を見る。
「こんなことにならなきゃ、珠子ちゃんは何もしらないまま僕と幸せになれたんだから」
私の話のはずなのに、私にはなにもわからない。
「それが一番いい未来だったが、一番実現は低いと言っただろ」
咳混じりに話す咲仁くんに、幸夜くんの顔が曇る。
「みんな、なに言ってるの? 私がパンドラの生まれ変わりだとか、希望の花嫁だとか」
人違いだとしか思えなかった。
確かにパパは陶芸家で高校生で一人暮らししていたり、ちょっと変わった家庭環境かもしれないけど、でもそれだけ。
「みんなみたいに不思議な力もないし、私はただの人間だよ」
水を操ったり、先を読んだり、怪我を治したり、獣に変身したり……そんなファンタジーな設定、私は持ってない。
「言っただろう。パンドラは人類最初の女だ。神の贈り物を持っていても、なんの力もないただの人間だ」
でも、それは私がパンドラじゃない証明にはなってくれないみたいだった。
跳ねのける咲仁くんの言葉に、幸夜くんに握られた手が震える。
「俺が冥府から魂を運んで宿した。間違えるはずがない」
「ずっと傍で見守ってきたんだもの。貴女がパンドラよ」
榴先輩にも畳みかけられて、その横に立つ花にまでそう告げられる。
よく見知ったはずの二人なのに、なんだかいつもと違う人みたいだった。
「貴女って、そんな呼び方しないでよ!」
気づいたら、悲鳴みたいな声を上げていた。
幸夜くんの手を振りほどいて、涙で視界が歪んでいく。
花は小学校からの仲だった。
塾で出会って、一緒に勉強したりして、大切な人だって榴先輩も紹介してくれて、誕生日だって一番に祝ってくれたのに……ずっと見守ってたって、なんなの? ずっと、友達だと思ってたのに……
「私はパンドラなんかじゃない!」
叫んだ瞬間、頬を涙が伝った。
「みんな、勝手なことばっか言わないで」
「珠ちゃん……」
花がいつもみたいに私を呼ぶ。でも、それが許せなかった。さっきは貴女なんて他人行儀な呼び方したくせに。
「馴れ馴れしく呼ばないで!」
私の叫びに花が目を見開いて、その目に涙の膜が張っていくのがわかった。でも、その膜が決壊する前に花は榴先輩の方を向いて顔を隠してしまった。そんな花の肩を、榴先輩が優しく抱き寄せる。
いたわる様な榴先輩の眼差しが、花じゃなくて私の方に向けられる。
余計に、胸のなかがぐちゃぐちゃになる。
「珠子ちゃん、落ち着いて……」
幸夜くんが差し出す手を振り払う。
「花もみんなも、大っ嫌い!」
咲仁くんもなにかを言いかけるのが視界の端に見えて、私はそれを遮るように言い捨てる。
踵を返してリビングを飛び出すと、背後で大きな音を立てて扉が閉まった。