エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
 私は幸夜くんを起こさないようにそっと部屋を抜け出すと、リビングへ向かった。
 リビングでは、咲仁くんが眠っていた。
 ソファーに横たわって、長い脚が少しはみ出している。薄いブランケットを掛けているだけで、寒そうだった。
 マスクをしたまま険しい顔で眠っているのをそっと起こさないようにキッチンへ向かうと、テーブルの上でスマホのアラームが鳴った。
 その音とバイブの振動に飛び上がって心臓が飛び出しそうになる。
 険しい顔のまま体を起こした咲仁くんがアラームを止めると、目を細めて私を見る。睨まれているような気がして、縮こまる。

「少しは落ち着いたか?」

 声はぶっきらぼうだったけど、掛けられたのは優しい言葉だった。
 私がいることに驚きもせず、最初っからいるのを知ってたみたい。

「なんで、こんな時間にアラームかけてたの?」

 こんな深夜にアラームをかけるなんて、普通は考えられない。
 そう思って聞くと、信じられない言葉が返ってきた。

「おまえが起きてくる時間だからだよ」

「えっ」

 私は、こんな時間に起きてくる習慣はない。今日もたまたまこの時間に目が覚めただけで、アラームをかけていたわけじゃない。
 ブランケットを剥がして、長い足をソファーから床に下ろした咲仁くんが、私の前に立つ。

「俺はそういう能力なんだよ。気持ち悪いか?」

 マスクの下で、咲仁くんが意地悪く嗤っているのがわかった。

「神様って、本当なの……?」

 他の三人と違って、咲仁くんの力は目の当たりにしたわけじゃないから、信じられなかった。今の言葉を信じるなら、未来予知みたいな力なのかなって思うけど、ただ偶然が重なっただけじゃないかって思いたくなる。
 咲仁くんは人間。だったら私もパンドラの生まれ変わりなんかじゃなくて、ただの人間だって思えるから。

「本当。今は人間に身を落としてるから、大した力はないけどな」

 マスクの下であくびをしながら、咲仁くんは私の横を抜けてキッチンへ行ってしまった。
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