エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
 咲仁くんを追いかけてキッチンに行くと、咲仁くんはグラスを二つ出して、ウォーターサーバーから水を入れていた。

「飲めよ」

 グラスの水に口を付けながら、私にも水の入ったグラスを差し出してくる。
 私も元々水を飲みに来たんだったって思い出す。咲仁くんと喋って、喉は一層渇いていた。

「ありがとう」

 胸の中はもやもやしていたけど、お礼を言ってそれを受け取る。
 水は冷たくて、美味しかった。自分で感じていた以上に喉は渇いていたみたいで、すぐに飲み干してしまった。
 おかわりをしようと思って、咲仁くんの隣でウォーターサーバーのコックをひねる。

「なにも食わずに寝ただろ。なんか食うか?」

「ううん、いい。いらない……食欲ない」

「ちょっとでも何か腹に入れろ。オマエに健康を損なわれると、いろいろ困る。喜久にもどやされるしな」

 これは、私のことを心配してくれてるって思っていいんだろうか。こんなことになったっていうのに、少しだけ嬉しい自分がいることに気がつく。でも、それでも食欲はわきそうになくて首を横に振る。
 
「花と榴先輩は?」

 泣き叫びながらいろいろ言ってしまった手前、心配されるのも心苦しくて話を逸らす。
 花にも大っ嫌いって言ってしまった。わけの分からない事を言われて、なんだか距離も遠くなった気がして、知らない人みたいで、裏切られた気分だった。

「帰らせた。特に、花の家はおっかないからな」

 キッチンのウォーターサーバーの前に立ったまま、会話が進む。

「花のお母さん、知ってるの?」

 花のお母さんは、本当に強烈だった。たぶん、学校でもマークされている気がする。
 榴先輩が双子のことを知ってたみたいに、噂に――って思ったけど、違う。そうじゃない。本当に噂になっていたのかもしれないけど、でも榴先輩が双子の事を知ってたのは仲間(グル)だったからだ。
 気づいてしまって、グラスを持つ手が震えた。
 花のお母さんには何度も会ったことがある。榴先輩にはキツいし過保護で花は息苦しそうだったけど、私には優しくしてくれた。会うたびに『いつも花と仲良くしてくれてありがとう』って、どこにでもいる普通のお母さんだと思ってた。
 でも、花が女神様だっていうんなら、花のお母さんは……?

「古い付き合いだな……化身の俺らに人間の親はいないが、アイツは正真正銘、花の――ペルセポネの母親、豊穣の女神デメテルだ」

 やっぱり花のお母さんも、仲間(グル)だった。
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