エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
花だけじゃなくて花のお母さんまで、私を騙していた。
他のみんなはどうなんだろう。芽依とか栞里とか正美とか。他のみんなもずっと私を騙してきて、ずっと傍で見張られてきたんだとしたら……絶望的な気分だった。
花はペルセポネの化身で、花のお母さんもデメテルの化身。
私がパンドラの生まれ変わりだっていうんなら……
「パパ……は?」
咲仁くんが言った古い付き合いという言葉。私が学校でパパとどういう関係なのか聞いたときにも返ってきた言葉だった。
水を飲んだところなのに、喉が渇いて声が上手く出ない。
怖ろしい。それでも聞かずにはいられなかった。
「喜久はヘイパイストス――炎の神だ」
体が……心が、バラバラになりそうだった。
「喜久と昔馴染みなのは親じゃない。俺ら自身がだ」
グラスを持つ手に力が入らなくて、取り落としそうになったのに気づいて咲仁くんがグラスを取り上げてシンクに置く。
頭のなかに靄がかかったみたいに、現実感がない。
聞き馴染みのない横文字の名前。私の知っている高良喜久は偽物だったの? ママが男と出て行って男で一つで育てられてきたって思ってきたけど、それも全部嘘? ママも女神様? それともママなんていない? 私はパパが作った陶芸作品の一つなのかもしれない。神様なんだから、そういうことだって出来るのかもしれない。
パンドラの生まれ変わり。そんなことを言われたってなんの実感も持てないのに、私は私が人間とは違う生き物になってしまったような気がした。
「珠子……」
いたわる様な優しい咲仁くんの声。咲仁くんに涙をぬぐわれて、私はようやく自分が泣いていることに気が付いた。
「喜久の愛情を疑ってやるな。花の友情もだ」
優しい手が私の頬に触れる。
「最初は希望の花嫁のために、おまえのそばにいた。それでも、おまえはパンドラとは違う。パンドラとは違う命を、違う人生を歩んだ。魂は同じでも、おまえはパンドラじゃない。喜久も花も、パンドラではなくオマエを――高良珠子を慕っている」
そう言われても、すぐには納得できない。私はパンドラじゃない。前世の記憶もないし、希望の花嫁と言われてもピンとこない。私とパンドラは別人だ。それは、確かだった。
パパも花も、パンドラとは別の私を思ってくれている。きっかけはパンドラでも、パパは私のパパで、花は私の親友。咲仁くんが言うみたいに、本当にそうだったらいいのに。
咲仁くんが私を励まそうとしている。優しい手から、それだけは確かに伝わってきた。
他のみんなはどうなんだろう。芽依とか栞里とか正美とか。他のみんなもずっと私を騙してきて、ずっと傍で見張られてきたんだとしたら……絶望的な気分だった。
花はペルセポネの化身で、花のお母さんもデメテルの化身。
私がパンドラの生まれ変わりだっていうんなら……
「パパ……は?」
咲仁くんが言った古い付き合いという言葉。私が学校でパパとどういう関係なのか聞いたときにも返ってきた言葉だった。
水を飲んだところなのに、喉が渇いて声が上手く出ない。
怖ろしい。それでも聞かずにはいられなかった。
「喜久はヘイパイストス――炎の神だ」
体が……心が、バラバラになりそうだった。
「喜久と昔馴染みなのは親じゃない。俺ら自身がだ」
グラスを持つ手に力が入らなくて、取り落としそうになったのに気づいて咲仁くんがグラスを取り上げてシンクに置く。
頭のなかに靄がかかったみたいに、現実感がない。
聞き馴染みのない横文字の名前。私の知っている高良喜久は偽物だったの? ママが男と出て行って男で一つで育てられてきたって思ってきたけど、それも全部嘘? ママも女神様? それともママなんていない? 私はパパが作った陶芸作品の一つなのかもしれない。神様なんだから、そういうことだって出来るのかもしれない。
パンドラの生まれ変わり。そんなことを言われたってなんの実感も持てないのに、私は私が人間とは違う生き物になってしまったような気がした。
「珠子……」
いたわる様な優しい咲仁くんの声。咲仁くんに涙をぬぐわれて、私はようやく自分が泣いていることに気が付いた。
「喜久の愛情を疑ってやるな。花の友情もだ」
優しい手が私の頬に触れる。
「最初は希望の花嫁のために、おまえのそばにいた。それでも、おまえはパンドラとは違う。パンドラとは違う命を、違う人生を歩んだ。魂は同じでも、おまえはパンドラじゃない。喜久も花も、パンドラではなくオマエを――高良珠子を慕っている」
そう言われても、すぐには納得できない。私はパンドラじゃない。前世の記憶もないし、希望の花嫁と言われてもピンとこない。私とパンドラは別人だ。それは、確かだった。
パパも花も、パンドラとは別の私を思ってくれている。きっかけはパンドラでも、パパは私のパパで、花は私の親友。咲仁くんが言うみたいに、本当にそうだったらいいのに。
咲仁くんが私を励まそうとしている。優しい手から、それだけは確かに伝わってきた。