エルピスの花嫁～双子の神様に愛されて～小説版

第五章「最高神の求愛」

　早朝、私は誰もいない図書室に来ていた。
　学校を休んでもいいという双子に首を振って、三人で登校してきた。一人で調べごとをしたいからって言って、二人には外で待ってもらっている。双子は図書室の中に誰もいないことを確認すると、出て行った。
　私の調べたいことと言えば、一つしかない。
　『ギリシア神話』シンプルなタイトルのついた本を見つけ出すと、私は閲覧席の長テーブルでそれを広げる。
　昨日一日でいろんなことがあって、双子も私を気遣ってくれているんだと思う。じゃなかったら、きっと一人になんてしてもらえなかったと思う。二人のことを思いながら、私はページをめくっていく。
　一番なにが知りたいって『希望の花嫁』だった。私がそうだっていう割には、説明してもらってない。
　昨日、咲仁くんが言ってたみたいに花が話してくれるんだろうけど、気持ちの整理を兼ねて自分でも調べてみたかった。
　でも、索引を開いてみても『希望の花嫁』という項目はなかった。それならと、私はパンドラのページを開いた。

【パンドラ】
プロメテウスが天上の炎を盗んだことに怒ったゼウスが、人類の災いとしてヘイパイストスに作らせた人類最初の女性。パンドラは決して開けてはいけないと神々に言われた箱（甕）を持たされ、プロメテウスの弟エピメテウスの元に贈られる。パンドラは好奇心から箱を開けると、中から様々な災いが飛び出していき箱には希望だけが残っていた。

　本の記述に目を通すと、昨日告げられた名前がいくつも出ていた。
　咲仁くんが火を盗んでゼウスを怒らせて、パパが私を作って、幸夜くんのところにお嫁にやったってことみたいだけど……よくわからない。なんで咲仁くんに怒って幸夜くんにお嫁を？　私が箱を開けるのを計算済みで送り込んだってことなのかな……でも、怒らせたのは咲仁くんなのに割を食うのは人類ってどういうことなんだろう。ゼウスっていう神様の考えがよくわからない。
　そこまで考えて、私は昨日の咲仁くんの言葉を思い出した。
　昨日の化け物をけしかけて私を殺そうとした人が、私にパンドラの箱を開けさせた。それってつまり、ゼウスっていう神様が――
　ゼウス。その名前の神様がどんな神様かって、私でも知っている。ゼウスは、ギリシア神話の一番偉い神様の名前。最高神が、私の命を狙っている……？