エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
「調べものですか? 感心ですね」
誰もいないはずの図書室で声を掛けられ、本から顔を上げる。
見ると、貸出カウンターの内側に長髪の男子生徒が立っていた。
長身痩躯、切れ長の涼し気な目元。さらりとした黒髪を一つに束ねていて、清涼な立ち姿だった。
「桜花先輩!」
私は思わず腰が浮く。
集会で何度も顔を見たことがある。生徒会長の桜花美琴先輩だった。
去年の生徒会長選の直前に転校してきて、そのまま当選したって聞いている。成績もトップで、顔もいい。入学式の挨拶で、ハートを射抜かれた新入生も多かった。
桜花先輩がカウンターから出てきて、私に近寄ってくる。
そういえば、カウンターの奥には書庫があるらしかった。双子は転校してきたばかりで学校の造りを把握していないし、図書委員ぐらいしか使わないから私も忘れていた。書庫に桜花先輩がいるなんて全然気が付かなかった。
「なに読んでいたの?」
「神話の本です」
座りなおして、桜花先輩に本の表紙を見せる。
桜花先輩はテーブルに手をついて、のぞき込んでくる。おくれ毛が目にかかって影になって、妙に色っぽい気がした。
双子も榴先輩もイケメンだけど、桜花先輩は三人とはまた種類の違うイケメンだった。
「ああ、ギリシア神話か。今更こんなものを読まなくったって、キミはよく知っているじゃないか――ああ、もしかして記憶は引き継いでいないのかな? まあ、所詮パンドラもただの人間だ。仕方がないか」
「え――……」
か細い声が、自分の口から漏れる。
本を持つ手に、桜花先輩の手が重なる。冷たい手だった。
「高良珠子ちゃん、前世のパンドラと同じ過ちを繰り返す気かい?」
キレイなのにとても冷たい眼差しが、私を捉えていた。
誰もいないはずの図書室で声を掛けられ、本から顔を上げる。
見ると、貸出カウンターの内側に長髪の男子生徒が立っていた。
長身痩躯、切れ長の涼し気な目元。さらりとした黒髪を一つに束ねていて、清涼な立ち姿だった。
「桜花先輩!」
私は思わず腰が浮く。
集会で何度も顔を見たことがある。生徒会長の桜花美琴先輩だった。
去年の生徒会長選の直前に転校してきて、そのまま当選したって聞いている。成績もトップで、顔もいい。入学式の挨拶で、ハートを射抜かれた新入生も多かった。
桜花先輩がカウンターから出てきて、私に近寄ってくる。
そういえば、カウンターの奥には書庫があるらしかった。双子は転校してきたばかりで学校の造りを把握していないし、図書委員ぐらいしか使わないから私も忘れていた。書庫に桜花先輩がいるなんて全然気が付かなかった。
「なに読んでいたの?」
「神話の本です」
座りなおして、桜花先輩に本の表紙を見せる。
桜花先輩はテーブルに手をついて、のぞき込んでくる。おくれ毛が目にかかって影になって、妙に色っぽい気がした。
双子も榴先輩もイケメンだけど、桜花先輩は三人とはまた種類の違うイケメンだった。
「ああ、ギリシア神話か。今更こんなものを読まなくったって、キミはよく知っているじゃないか――ああ、もしかして記憶は引き継いでいないのかな? まあ、所詮パンドラもただの人間だ。仕方がないか」
「え――……」
か細い声が、自分の口から漏れる。
本を持つ手に、桜花先輩の手が重なる。冷たい手だった。
「高良珠子ちゃん、前世のパンドラと同じ過ちを繰り返す気かい?」
キレイなのにとても冷たい眼差しが、私を捉えていた。