エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
     *

「目の色キレイ~。ハーフなの?」

「ううん。おばあさまがギリシャ人なんだ。だから、クォーターになるのかな」

「おばあさまだって、お上品!」

 ホームルームが終わると、すぐに双子の周りに人だかりが出来ていた。
 芽衣と栞里と正美もその輪の中に加わって、二人にあれこれ話しかけていた。

「顔そっくりだね~。ねえねえ、マスク外して見せてよ」

 話し声が聞こえてくるけど会話しているのは幸夜くんだけみたいで、咲仁くんはだんまりを決め込んでいるみたい。

「クール! かっこいい~」

 でも、そんなところも受けてるみたいでイケメンって凄い。

「ほんと、なんなんだろう」

 思わず、独り言が出た。
 ほんとうに、婚約者ってなんのことなんだろう。
 双子の方に行って、私から離れてくれたのはよかった。
 問い詰められたって、答えられるわけがない。むしろ私が幸夜くんに問い詰めたい!

「それで幸夜くん……珠子の婚約者って本当?」

 芽衣が話を切り出した瞬間、教室の中が静まり返った。
 双子のところに行かなかったクラスメイトたちまで聞き耳を立てている。
 私も興味津々で聞き耳を立てていたけど、もう耐えられない。
 巻き込まれる前に逃げようとこっそり立ち上がって教室を抜け出す。

「珠ちゃん……」

 双子に注目が集まってるから気づかれないって思ったけど、花が追いかけてきた。

「ごめん、花。私も初耳だし、今なに質問されても答えられないから!」

 親友に隠し事するみたいで気が引けるけど、本当だから仕方がない。

「ちょっと、パパに電話してくる!」

 私は花の顔を真っ直ぐ見れないまま、中庭に走っていった。
 今朝、咲仁くんはパパの紹介で家に来たって言っていた。
 だから、婚約者のこととかも絶対パパが一枚嚙んでるに決まってる。
 パパは昔っからそういうところがあった。
 ちょっと世間とズレてるっていうか、突拍子もないことをすることがある。
 そういうところがパパの仕事にも役立ってるんだろうけど、娘としては正直迷惑に思うところもあった。

 私のパパ――高良喜久は、陶芸家だった。
 今も海外で仕事をしてるぐらい、世界的に有名なアーティスト。
 この間も雑誌で特集組まれてたみたいで、本屋さんで名前を見かけた。
 久しぶりに見たパパの顔に思わず買ってしまったけど――――今はギリシャで個展を開いてるって書いてあった。
 私が知ってる限りだと、パパはイタリアに行ってたはずなんだけど……
 実の娘が親の所在を雑誌で知るってどうなのよ!? 思い出したらまた腹が立ってきた!
 お母さんが過保護で榴先輩とのデートもままならない花は、放任主義のパパが羨ましいって言ってたけど……放任主義とはなんか違う気がする。
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