皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
「あの…あの…お父さんが…倒れ…あの…。」
「落ち着いて下さい。息はしていますか?」
「して…ます。小さく返事?しました…。」
「今はどんな状態ですか?」
「トイレで…あの…倒れていて…今もずっと…。私知らなくて。いつからとか…」
「何かを吐いている様子や頭を打っている形跡はありますか?」
「ごめんなさい…全然わからないんです…。」
「分かりました。救急車をそちらに搬送させますのでお名前とご住所を伝えてくれますか?」
震える手と、震える声。
電話越しから落ち着いたトーンで話されるが、全くこっちは冷静になれない。
自分の住所を上手く伝えられたのかさえ覚えていない。
待ってる数分がとにかく長くて、動けないお父さんの手をただ握ることしか出来なかった。
早く…
早く…早く誰か…。
ドンドンドン!!
インターホンが壊れている為、派手な音で玄関のドアをノックされる。
「木村さん!居ますかー?救急隊員です!」
「ここです!!」
ドアを開けに行く判断が出来ず、大きな声でここにいると叫ぶ。
ドアがガチャっと開くと、本で見たことがあるヘルメットを被った救急隊員が数人顔を覗かせる。
焦っている私の姿を見た隊員達が、身体についている何かのガチャガチャ音を立てて、お父さんの様子を見る。
「お父さん?お父さん?わかる?」
「意識消失、担架一台お願いします。」
声かけをして、無線でやり取りをした後に担架で運ばれるお父さんや隊員達を、ずっと震える身体でその現場を見ていた。
「ご家族様は?」
「私…だけです。」
「一緒に乗って行ってもいいけど、帰りは送れないんです。どうしますか?」
「の、乗ります…。」
「お父さんの保険証やお薬手帳などあれば持っていった方が助かります。少し検査するのでお待ちを。」
運ばれるお父さんを見守るのに外に出ると、アパートの外で赤いランプを回している救急車が停まっていて、遠くで数人どうしたの?という顔でこちらを見ていた。