皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
車は指示通り信号二つ目を右に曲がり、私のアパートまでは真っ直ぐのバイパス道路を走っていく。
距離にして車で15分程だろうか。
一瞬だけ沈黙で、車内から流れる小さな音楽だけが聴こえるかと思えば黒川君が口を開く。
「幸子…怒らないで聞いてくれな。」
「……なに?」
「俺、幸子の家も、幸子の家庭事情も知ってるんだ。」
「……え?」
思わず握っていた手を緩めてしまうが、離さないと言わんばかりの彼の手がグッと力が入る。
「いつだったかな。度々出る幸子から聞くちょっと踏みいっちゃいけない言葉。気になってたけど聞けないってゆうか…。
こっちの都合で頼みごとしちゃったけどヤバい奴だったらって可能性もあるじゃん?家族や身内が反社会的なね?
だから秀紀さんが色々使って調べてたんだ。」
「…………。」
「でも俺にしたら幸子がどんな所にいてもどんなヤバい奴でも全然良かったんだ。俺の容姿や知名度だけで寄ってくる女と幸子は違ったから。」
「…………。」
「黙っててごめん。」
「……るでしょ?」
「え?」
流れる音楽がどれもこれも知らない、対向車の車のライトがたまに眩しく感じながら見慣れた景色を、歩くスピードよりずっと早く通りすぎていく。
「他にも黙ってることあったでしょ?私、黒川君の年齢も知らなかったし…彼女…いるんでしょ?髪の長い綺麗な女の人。」
「年は…ごめん。特に世間に隠してなかったから知ってるつもりで接してた。でも知るわけないよな。それは俺が悪かった。あと彼女?…彼女は…幸子だけだぞ?」
「…嘘だ。動画で観たもん。黒川君の誕生日の動画。」
「あぁ!観てくれたの?動画。」
何故か嬉しそうに話す黒川君に、こっちが悩んで悩んで言った事なのに、的外れな反応に戸惑う。