皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
「幸子、俺の動画なんて観ないかと思ってた。…てか、俺のこと興味ないかと思ってたから。そっか。」
聞いた質問と違う答えにこっちが煮え切らず、何て言っていいのかわからなくて思わず話してる最中に緩んだ手を離して、自分の膝の上に手を置く。
「彼女じゃない。彼女じゃないから。あれはパフォーマンス…ていうか、あそこにいたメンバーは知ってるし、彼女あぁ見えて年齢詐欺で、30越えてるんだぞ?」
「………でも。」
「まだ何かある?」
「トートバッグ…貰ってた。私もあげたのに…。私のなんて、黒川君にしたら安いかもだけど…私にしたら…。」
物凄く悩んで、物凄く高くて、だけど黒川君の為に買ったんだよ、と。思わず言いそうになる前に
離れた筈の手が、またソッと私の手を覆うように握る。
「純さん、助手席のバック取ってくれます?」
少し前屈みになって運転手から受け取ったそれは、
「毎日使ってるよ、幸子がくれたんだもん。当たり前じゃん。」
私があげた犬の絵が描いたトートバッグ。
犬の顔が
こちらを見て笑ってる絵と、片手でトートバッグを見せる黒川君の顔も
私の手を握りながら
優しい顔で笑っていた。
「ちなみに俺はインコ派。」
「せめて哺乳類を選択肢にしてくれない?」
「ジョーダンだよ、これスゲー使いやすいんだ。今度これ動画で出すからまた観てよ。」
そして道路から見える私達の学校を見て呟く。笑顔には変わらないが、どことなく寂しそうに
「行きたかったなぁ。学祭とか皆と修学旅行とか。」
と、窓の外を見ながら昔の話をしてくれた。