皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
「俺、売れる為にどんな仕事も引き受けてたから高校なんて行く暇なくてさ。でもさ、高校生役のドラマの時かな?脇役だったけど、わかんないんだよな。高校生の本来の姿が。まだガキなのか、それとも大人になってきているのか。
台詞二つくらいしか無い脇役なのに、監督に怒られたんだ。
そんな高校生がいるか!ってね。」
「どんな演技したのよ。」
「覚えてねー。でもきっと、知らないから駄目だったんだな。だからちゃんと勉強して受験して、尚且つ高校生活を謳歌したかった。」
「…うん。」
「見返したかった。監督にも、嫌がらせしてきた当時のメンバーにも。両立して成功させたかったんだ。」
「…私も…。家が貧乏だからって馬鹿にしたり、苛めてくる人達に負けたくなかったからなんとなくわかるよ。」
黒川君が話している最中、何度も何度も携帯が鳴っている事に気付いていた。きっと呼び出しされているんだろう。
だけど、
出なくていいの?とも言えず、私の知らない黒川君の過去を聞いていたかった。私達には、お互いの話す時間が必要だったのかもしれない。
黒川君に対して固まっていたわだかまりが、話すことによってサラサラと砂のように落ちていく感覚。
「あ、純さんここで停めて。送っていくから。」
本当に家を知っているんだろう。直ぐ目の前までのアパートに車を停めさせ、車のドアを開けて二人で降りる。
送るといっても数メートル。
何年も住んでいるボロいアパートを改めて見られると、知られてるとはいえ恥ずかしく思えてしまう。
「今日は…本当にありがとう。」
「いいよ。連絡くれてビックリしたけど、幸子の為なら飛んでいくよ。」
「今まで放置してたくせに。」
嬉しさと恥ずかしさで思わず憎まれ口を叩いてしまう。